2018年の秋、筆者は中国で、ある民営企業の経営者A氏と食事をした。招かれた場所は華東地区の豪勢な乗馬クラブ。羽振りの良さをうかがわせたが、昨今の深刻な不景気はさすがに彼にとっても他人ごとではない。
A氏は「状況は非常に悪いですね。私の周りでも、倒産が相次いでいます」と表情を曇らせた。
その数日後、政府による、民営の中小企業の経営コストを大幅に引き下げるための一連の施策が、経済紙に掲載された。経営を少しでも好転させようという異例の策である。
施策の主な内容は、中小企業向けの融資を広げ、税金を引き下げ、社会保険の負担額を減らし、電気代を引き下げ、新たな起業の際は用地取得の面倒を見る──といったものだ。
民営企業はGDPの6割を叩き出し、政府にとって5割以上の税収源となっている。民営企業が苦境に陥るのは国家の死活問題である。政府が全力で企業の救済に当たるのはもっともといえよう。
資金調達で「急拡大」のアクセル
中国でいま最も苦しい状況に置かれている業界の1つが不動産業界だ。
中国の不動産会社の多くは債券市場を通して多額の資金を借り入れているが、昨年から償還期が到来し返済に窮している。中国紙を開くと、国購投資集団(安徽省)、美吉特集団(江蘇省)、華業資本(北京市)や大発地産(上海市)など、債務超過に陥る企業の名前が並ぶ。