外交において不可欠な軍事情報の活用

 北方領土問題に限らず、領土問題や世界各地で起る事件には、軍事が大きな影響を与えています。それらの情報収集には、大使館などの在外公館が大きな比重を占めていますが、そこで軍事面の情報収集にあたるのは、防衛省・自衛隊から外務省に出向した「防衛駐在官」と呼ばれる自衛官です。現在では、47の大使館などに、67名の自衛官が派遣されています。ただし、世界全体を見回せば、防衛駐在官の赴任地はまだ一部に留まっています。

 2003年までは、彼らの報告は外務省から防衛省に渡っていませんでした。重要な情報が、軍事知識の足りない外務官僚から注目されることなくムダになっていたわけです。

 現在では、こうした状況はかなり改善され、軍事が絡む外交課題は、各大臣が参加する国家安全保障会議(通称「NSC」)で議論されるようにもなっています。北方領土問題に解決の兆しが見られるのも、こうした外務省と防衛省の連携の賜物と言えるでしょう。

 北方領土交渉は今後も難航が予想されますが、外交における軍事情報、防衛省の役割は今後ますます大きくなっていくはずです。

妥結の一歩手前まで進んだ2016年の交渉

 筆者は北方領土交渉の行方を決して悲観しておらず、妥結の可能性があると考えています。過去には、今以上に妥結の一歩手前まで行っていたこともあるのです。2016年の12月に行われた日ロ首脳会談は、安倍首相の地元、山口県で実施されました。安倍外交の集大成として、アピールするつもりだったことは間違いありません。ですが、この時も直前になって、交渉は暗礁に乗り上げました。

 当時、どのような交渉があったのかは、当然明らかにはされていません。2016年は、北朝鮮の弾道ミサイル発射が相次ぎ、アメリカではトランプ大統領が誕生する国際情勢の大変動年でした。こうしたことが、何らかの影響を与えたのかもしれません。

 拙著『北方領土秘録 外交という名の戦場』(祥伝社)では、そうした可能性の1つを歴史小説として描きました。本稿で述べたような、外交における軍事の重要性を理解していただけるものともなっています。ご一読いただければ幸いです。