トランプ政権は、サウジアラビアとイスラエルに大規模な軍事援助を行い、軍備の近代化を促進することと、トルコとの関係を改善することで、シーア派連合との力のバランスを維持しようとしているとみられる。

 そのためにも、シーア派を支援しているロシアとの関係改善を進めるのが、米国としては得策になる。

 ただしイスラエルもサウジアラビアも人口が少なく、イラン・イラク・シリア連合に対し地上兵力主体の通常戦争や人的犠牲を顧みない長期のテロ・武装闘争には対抗できない。

 それに対する抑止力として重視されているのが、イスラエルの核抑止力である。

 しかし、もしもイランに弾道ミサイルの保有能力や核開発の潜在能力を残せば、将来イランが核ミサイルを保有し、シーア派の独自の核抑止力が機能するようになるかもしれない。

 そうなればシリア、さらにはトルコも核保有することになり、一気に中東域内の核拡散が進み、イスラエルの核抑止力も機能しなくなるであろう。

 このような予測に立てば、トランプ政権がイランの核合意に強硬に反対していることに、相応の理由があることが分かる。

 トランスジェンダーの軍人の受け入れ拒否については、クリントン大統領が受け入れようとしたときに軍がこぞって反対したという経緯がある。現在も、軍は受け入れ拒否を表明している。

 以上から明らかなように、マティス国防長官とトランプ大統領が意見を異にしたとされる対立点について、米国の国益の視点に立ち個別に分析すれば、トランプ大統領の主張により妥当性があると言えよう。

自立防衛を迫られる米同盟国

 トランプ大統領が、マティス長官を「民主党員のように思える」と評したのも、分からなくはない。

 トランプ大統領のとってきた政策は、共和党の政策にも沿ったものである。マルコ・ルビオ議員も、大統領選挙の予備選挙では、メキシコ国境の壁建設などを訴えていた。

 サイバー、テロ、移民流入、ミサイル防衛システムを突破して攻撃できる中露の新たな核ミサイルなど、米本土に対する直接的脅威はますます高まっている。

 従来の前方展開戦略態勢は、米国にとり、政治的コストも含めた維持コストが高いだけではない。

 中露の周縁地域に対するミサイル脅威や地上戦力の浸透により、米国の国益にとり死活的ではない地域紛争に巻き込まれ、米本土防衛に必要な資源を浪費するおそれも高まっている。

 トランプ政権は、マティス国防長官の辞任に伴い、米本土防衛を主眼とする、より効率的で将来の脅威に備えた戦略態勢への転換を加速させるであろう。

 そのことは、日韓台など東アジアの米同盟国にとっても、駐留米軍の削減・撤退、米軍の有事来援の期待度低下、米国による核の傘の信頼性低下などを招くことになるとみられる。

 また平時における、防衛費分担の増大、米国製武器の購入と米国との共同研究開発の拡大など、米側のより厳しい要求に直面することになるであろう。

 それと同時に、自ら自立して自国を守り抜くための自立的防衛態勢の確立も迫られることになろう。