さらに帰還した傷病兵の生涯にわたる医療費や家族支援など、今後かかる将来コストも3兆ドルを要するともみられている。

 2019年会計年度の米国防関連予算は7160億ドルと、ロナルド・レーガン政権以来の最大規模となった。そのうち国外作戦経費は約690億ドルに上っている。

 しかし他方では財政赤字も約1兆ドル増加し、連邦の累積財政赤字総額は21兆ドルに達するとみられている。

 以上のような人的犠牲と財政事情を考慮すれば、トランプ大統領の「中東で米国が警察官であることは無意味であり、貴重な人命と何兆ドルもの資金を浪費するだけだ」との主張は間違ってはいない。

 トランプ大統領は、大統領選挙当時、バラク・オバマ政権がアフガニスタンなどで必要のない戦争を続けていることを非難し、早期の撤兵を要求していた。このアフガニスタン撤兵問題についは、トランプ政権内で対立があった。

 トランプ陣営の選挙対策本部長だったスティーブ・バノン首席戦略官兼大統領上級顧問は、2017年8月にアフガニスタンへの増派に同意したトランプ大統領に反対し、政権を去った。

 この時には、増派を主張するマティス国防長官の主張にトランプ大統領は同意している。

 今回の辞任劇は、シリアとアフガニスタンでの兵力維持を主張するマティス国防長官をトランプ大統領が事実上解任したことになる。

 バノン解任と逆の理由、すなわち撤兵という本来の主張にトランプ大統領が戻ったことを示している。

 マティス国防長官の主張する同盟国に対する敬意という問題の背景には、米国の負担が限界にきていることと米国の戦略態勢の転換という問題が潜在している。

 トランプ大統領は、NATOやアフガニスタンなどの同盟国が、米国に犠牲を押しつけ、防衛努力を怠っているとの不満をたびたび表明している。

 NATO主要国のうち、英国を除き仏独伊などの主要国は、NATOが合意した防衛費を対GDP(国内総生産)比2%にするとの目標を達成していないことに対し、トランプ大統領は非難を強めていた。それをなだめてきたのがマティス国防長官だった。