伊達由尋さんが制作した「やもり」。鬼瓦の伝統にとどまらないさまざまな作品にチャレンジしている。

 “業界の救世主”と呼ばれる女性がいる。衰退著しい鬼瓦業界にあって、“全国最年少女性鬼師”として、1400年を越える伝統を守るべく、時代に即した変革への挑戦を続けている。鬼瓦製造企業「伊達屋」(愛知県高浜市)の伊達由尋さん(25)である。

 前編では、バレエ&アイドル活動という異色の経歴と、それをベースにした制作コンセプトのイノベーション、そしてそれを可能にした師匠たちの「伝統産業の慣習を打破した教育」を取り上げた。

 後編では、業界のビジネスモデルを根底から覆す彼女の取り組みや、鬼瓦の用途や売り先の大胆な変革についてご紹介したい。

(前編)「元アイドルだからこそ作れた画期的な『鬼瓦』」
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/54871

価格決定権を取り戻すことが再生の契機

「伊達屋」の伊達由尋さん

 伊達さんの取り組みの中で最も革新的なものが「価格決定権の確保」だ。

「従来、鬼師が制作した鬼瓦は、バイヤーさんが買い取り、販売してくれていました。でも、優れた実績のある鬼師であっても価格決定権がないために十分な対価が得られず、廃業に追い込まれたり、アルバイトで生計を立てざるを得なかったりするケースが跡を絶たなかったのです」

 筆者は、ある作品を見せてもらい、それを制作するのに要した時間数と、その買取り価格を聞いて愕然とした。あえて具体的金額は伏すが、これでは寝る間を惜しんで作り続けても到底食べてはいけないし、廃業して勤め人になった方がよいと考える鬼師がいたとしても決して不思議ではない。この点を抜本的に是正しない限り、業界は遠からず滅亡してしまう。