日産による出資比率が25%を越えればルノーの日産に対する議決権が相殺され、日産は経営の自主性を確保できるからだ。資金源は「官製ファンド」である。
2018年9月、産業革新機構(INCJ)を改組して誕生した産業革新投資機構(JIC)。産業革新機構の設置期間を大幅に延長し、2兆円の投資枠を4~5兆円に拡大する計画もある。過去にルネサスエレクトロニクスやジャパンディスプレイ(JDI)に数千億円を投資し、東芝メモリを買収した日米韓連合の一翼も担う。JICの社長に就任したのは三菱UFJ銀行出身の田中正明氏。頭取にはなれなかったが海外の金融機関に幅広い人脈を持つ大物バンカーで、経産省とも近い。さらにJICの子会社になったINCJの会長は日産取締役の志賀俊之氏である。
日産はまだ「隠し玉」を持っている?
JICの表看板は「ベンチャー投資」だが、INCJの資金の過半がルネサスやJDIといった日本の電機産業の再編・再建に注ぎ込まれたことを考えれば、日産・三菱自の経営権をルノーから取り戻すことにJICの資金が使われても不思議はない。資金を拠出するJICには田中、受け取る日産には豊田と志賀がいる。そしてJICと日産の背後にいるのが経産省という見立てである。
マクロン大統領とゴーン氏の「連携」に警戒感を強めた日産の日本人経営陣と経産省は、要所の人事で布石を打って「日産奪還」の布陣を整えた上で、ゴーン氏の追い落としに出た。当然、フランス側は反撃に出るだろうし、有価証券報告書の虚偽記載だけでゴーン氏を仕留められるとは思えないので、日本側はまだ「隠し球」を持っているかもしれない。事態の推移は予断を許さないが、これがゴーン氏個人のスキャンダルでないことだけは間違いなさそうだ。