しばしば本コラムで展開状況をアップデートしているように、現在南沙諸島には中国が7つの人工島を建設している。軍用航空施設や港湾施設をはじめとする各種軍事施設、巨大灯台や気象観測所なども設置し、少なくともそれらの人工島の実効支配態勢は確立させている。

 2014年に人工島の建設を始めるまでは、台湾、フィリピン、ベトナム、マレーシアがそれぞれ1カ所ずつとはいうものの滑走路を設置した島嶼環礁を実効支配していた。中国はそのような島嶼環礁を有していなかった。そのため、軍事的に重要な意味を持つ滑走路という観点からは、中国による南沙諸島の実効支配態勢は後れを取っていたのだ。ところが、人工島・軍事基地群の建設という挙に出た中国は、4年も経たないうちに本格的軍用飛行場3カ所を含む7つの軍事拠点を手にしてしまい、一気にライバルたちの実効支配態勢を決定的に凌駕する強固な軍事的支配態勢を確立してしまった。

中国の人工島に取り囲まれた太平島(作図:CNS)
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 それに対してアメリカは、トランプ政権が対中強硬姿勢に舵を切ったとはいえ、南シナ海で中国に直接軍事的圧力をかけるだけの“攻撃準備”も“補給態勢”も整っていない。そのため、南シナ海に関係する同盟友好諸国による対中対決姿勢が何よりも重要になっている。

台湾と日本の好対照の外交能力

 今年の10月下旬から11月上旬にかけて、台湾当局はこのような情勢を自国とって有利に導くため、太平島での島嶼防衛砲撃訓練を実施する予定を公表し、アメリカ海軍艦艇に太平島への寄港を打診した(あるいは「打診した」との情報をリークした)。

 当然のことながら中国当局は、“中国の海”である南シナ海の、“中国の領土”である太平島で中国海軍を打ち払う砲撃訓練を実施することに強烈に反発している。

 もしアメリカ海軍艦艇が太平島に寄港した場合、太平島の主権が台湾にあることをアメリカが公式に認めたことになる。それは中国にとっては大打撃である。

 ただしアメリカは、伝統的に第三国間の領域紛争には介入しないことを外交政策の鉄則の1つとして堅持し続けている。そのため、たとえ台湾当局が太平島への米海軍艦艇の寄港を招請したとしても、さすがのトランプ政権でもアメリカ伝統の外交鉄則から離脱することは至難の業といった状況だ。

 実際に、アメリカ軍艦の太平島寄港という“噂”はうやむやな状態になってしまった。しかしながら、台湾による一連の動きが、中国に対して若干ながらとはいえボディーブローを加えたことは間違いない。

 以上のように、トランプ政権の対中強硬姿勢への方針転換という機を捉えて、反攻態勢を強化しつつある台湾と、このタイミングで「空気」を読まずに中国との協調姿勢を打ち出して「常日頃頼り切っている」同盟国に不信の念を生じさせてしまう日本とは、好対照の外交能力を指し示しているといえよう。