日本においてはM&Aが増え続けているが、その理由は「事業の成長」といったポジティブなものばかりではない。

 三菱UFJリサーチが2017年に発表した『成長に向けた企業間連携等に関する調査』によると、M&A先の経営者が高齢になればなるほど、その理由に「事業の承継」を上げ、「事業の成長・発展」目的のM&Aは反比例するように大幅に下がっている(下図1)。

 つまりM&Aは「事業承継」の手段として行われることが非常に多いわけだ。実際にはどういった事例があるのか。資金繰りコンサルタントとして著名な小堺桂悦郎氏に聞いた。

債務超過でも利害が一致した事例

三菱UFJリサーチ&コンサルティングによる2017年調査より

 M&Aは売り手と買い手の思惑が一致することが条件だ。

 だからたとえ事業承継といったセンシティブな理由が発端であっても、結果としてWIN-WINの関係を結ぶことが可能だ。

 小堺さんは、ある理想的な事例を示す。

 A社の社長は、十数年前に大手アパレル会社を40代後半で早期退職。退職金を元手に脱サラして店舗型洋品店を起業した。

 順調に店舗数が増えた時代もあったが、ここ数年は低迷が続き、年齢的にも60歳を過ぎて事業承継について考え始めていた。

 息子はいるものの独立してサラリーマンとして働いている。わざわざ辞めさせて継がせるほどの会社でもない。従業員も数十人いたが、若い人たちが多く、それぞれに別の道を探すチャンスも十分にあるように思える。

 よい条件で会社を手放すのも一つの方法ではないだろうかーー?

 そんな思いを同業者でもあり、古くからの知り合いのM社社長に相談した。