早く売りたい、早く拡大したい

 そのM社はアパレル系の店舗展開をしている会社だが、事業を大きくするのに店舗の設備費用の借り入れにいつも頭を抱えていた。一店舗あたりの借入額がそれほど大きくもなく、その都度、銀行に申し込みをするのは、銀行も面倒がる。

 A社社長から、会社を売りたいという相談が持ち込まれたのは、ちょうどそんなタイミングだったのである。M社の社長は当時30代。結局、A社をそのまま買収した。

 そのときは、会社ごと買うという発想はまだなかったと言う。

 小堺さんは指摘する。

「売りたい人がいれば、買いたい人もいます。それがクルマだろうが不動産だろうが、会社であろうがです。先のA社は実際に債務超過の会社でした。ただし銀行返済のリスケはまだしていませんでしたし、返済猶予もしていない。手持ち金も月商の2か月分あります。自分の持ち株を売って、会社からの貸付(社長からすれば借入)を清算したいということでしたので、買ってもらえるところがあれば早く売りたい。M社は、早く効率的に店舗数を拡大したい。お互いにとって、まさに渡りに船でスムーズにM&Aが進みました」

 店を一店舗ごと買うのが面倒だから、同業者の店を会社ごと買うというのは、かなり乱暴な話にも聞こえるが、一店舗ごと売買するよりは遥かに効率的だ。

「たとえば、買おうとする会社の資本金が1千万円だったとして、それを2千万円で買うか、500万円で買うかは、売り手と買い手の合意があれば自由です。会社を買うというのは、所有する資産、権利、ひっくるめて買うことになります。そこには、借金(負債)もついてくることを忘れてはいけませんが」