そのため、今やアメリカ軍が中国軍と対峙するには、日本列島から台湾を経てフィリピンの列島線に至る、中国が言うところの第一列島線上に陸上軍事拠点を築くことが絶対に必要となっている。だからこそ、中国海洋戦力の真の実力を熟知していた前太平洋軍司令官ハリス海軍大将が、中国海洋戦力を叩くのは海軍力だけでは無理であり、地上に配備した対艦ミサイルや長距離ロケット砲といった地上軍戦力も総動員しなければならないと指摘したのである。
このように、日本だけでなくアメリカにとっても、日米同盟に翳りが生じることだけは避けたい状況となっている。ということは、中国にしてみれば、日米同盟に少しでも不協和音を生じさせることこそが「戦わずして勝つ」ために極めて望ましいことになるのだ。
一歩前進した「日米同盟分断」策
中国にとって幸いなことには、経団連などの日本財界の主流は「日中友好」の名の下に安定した日中経済交流を熱望している状況である。
したがって中国としては、安倍首相の訪中をとっかかりに、上っ面だけでも良いから「日中友好」の流れを演出して日本財界を取り込んでしまえばよい。そうすれば、日本政府としても、ホワイトハウスやアメリカ軍当局による対中強硬策にすんなりと与することはできなくなるからだ。
アメリカ政府とりわけトランプ政権は、アメリカが打ち出している中国との対決政策に躊躇するような姿勢を示す“同盟国”に対しては強い不信感を抱く傾向が強い。したがって、たとえ安倍政権が「東シナ海を平和の海へ」などというスローガンを本気にしてはいなくとも、日本の財界や政治家、それに政府関係者などの間に中国側に取り込まれてしまうような動きが生じれば、トランプ政権の中に日本に対する不信感が生ずることは必至である。その結果、中国側が画策しているとおり日米同盟に僅かでも亀裂が生ずることになるのだ。