田原 マツコ・デラックスにしてみれば、安いギャラで出てくれているわけだ。MXのどこに魅力を感じているのかな。
大川 いや、これご本人が番組でおっしゃってたんですけど、「MXに出るのは自分への戒めだ」って言ってましたね。
田原 どういうこと?
大川 要するに、MXに出ることは、自分に対して「調子に乗るなよ」と知らしめるための行為だと。
田原 そういうことね(笑)。
『5時に夢中!』には堀江貴文さんも出ていますよね。
大川 はい。今でも月1で。
堀江さんと僕、それにマツコさんも同い年なんです。要するに同じ年数を生きてきているわけですけど、堀江さんは全ての物事に対して、いつでも自分の見解をきちんと話すじゃないですか。その発言の内容には、時には間違ってることもあると思うんですけど、全てにおいてあれだけ語れるってこと自体が、すごいなって思いますね。
田原 堀江さんを番組に出し始めたのは、逮捕される前?
大川 前ですね。
ホリエモンを擁護したらナベツネ主筆と険悪に
田原 実は、僕は堀江さんが収監される時、対談の本を出したんです(『田原総一朗責任編集 ホリエモンの最後の言葉』アスコム刊)。
大川 そうでしたね。
田原 対談が終わったのが収監される前の日。
大川 そんなタイミングだったんですか。
田原 そう。最後に「さようなら、頑張って」「頑張ります」って言って別れた。で、翌日に収監です。だから実際の出版は堀江さんが収監中になりました。
大川 絶妙のタイミングですね。だったらかなり売れたんじゃないですか。
田原 いや、あんまり売れなかった(笑)。今は堀江さん、人気があるけれど、あの頃は人気なかった。
大川 ああ、そうでしたね。当時はどちらかと言えば嫌われキャラでしたよね。
でも、田原さんは当時から堀江さんをだいぶかわいがっていらっしゃった。
田原 堀江さんはフジテレビを買収しようとしたでしょう。それでマスコミ各社のトップがみんなアンチ堀江になったんです。
大川 そうですよね。
田原 僕はそのときまで、読売新聞の渡邉恒雄(読売新聞グループ本社主筆)さんとしょっちゅう一緒に飯を食ってた。というのも彼と僕は、意見が一致する点が多いんです。彼も僕も、昭和の戦争は侵略戦争だと思っている。だから、天皇や総理大臣は、絶対に靖国に行っちゃ駄目。この点で一致するんですよ。
大川 なるほど。
田原 ところが堀江事件で、当然ながら渡邉さんはアンチ堀江でしょう。僕は堀江さんを支持した。これで渡邉さんと仲が悪くなったんです。
大川 堀江さんの一件がきっかけになったんですが。
田原 その堀江さんを、大川さんもずっと起用しているわけでしょう。彼はどこが面白い?
大川 すべての事象に独自の見解があるっていうことと、やっぱり正直、僕と同い年とは思えないぐらいの圧倒的な知識量と鋭さを持っている。それに、収監後はだいぶ力が抜けましたよね。そこも以前とは違った魅力になっていると思います。
田原 彼は、「好きなことをやるんだ」と言い切ってる。「いい仕事とか悪い仕事じゃない。好きなことをやるんだ」とね。
大川 そうなんですよ。だから、堀江さん自身が仕事や人生をすごく楽しんでいるんですよね。発言も、肩の力が抜けたものが多いので、その分、炎上することもあるんですけど、そのことも含めて本人が楽しんでいる感じがします。
田原 堀江さんはどういうときに炎上するんですか。
大川 そうですね、最近だと「新幹線に乗っているとき、シートを倒すのにいちいち後ろの席の人に断らなきゃいけないなんていう風潮が広まっているけど、これは行き過ぎだ」なんて言ったときにはそこそこ炎上していました。それに対して堀江さんがまた「炎上するぐらい極端なことを言わないと世の中って動かないんだよ」って発言したら、さらに炎上しちゃったりして。
田原 炎上するのは、MXとしてはどう?
大川 うれしいです(笑)。
田原 困らない?
大川 よっぽどのクレームは困りますけど、全く話題にならないのはもっと困ります。
田原 なるほど。MXはクレームにも理解があんだ。
大川 そう思います。
『朝生』出演陣にも少なくなったタブーなき論客
田原 炎上しなかったらMXなんて存在できない?
大川 個人的にはそう思いますね。上層部はどう考えているか分からないですけど。
田原 いや、多分上のほうもそう思ってると思いますよ。
というのも、いまテレビが面白くなくなってきているでしょう。なんで面白くないか。テレビ局がクレームを怖がっているからなんですよ。昔は、クレームも電話で来たから担当プロデューサーが電話口で「すいません」って言っていれば収まった。
でもいまはネットで来るから、プロデューサーだけじゃなく、編成部とか管理部門、あるいはいきなりスポンサーに行っちゃったりして大騒ぎになる。それが怖いから、いまのテレビマンはみんなクレームがこないうような番組を作るんですよ。
大川さんはクレーム怖くないの?
大川 いや、怖いですよ。ただ、あまりクレームも来ないんです。逆にそれだけ世間に届いてないのかなと。番組が潰されるくらいのクレームがないということは、まだ世の中に対する影響力がさほどないということなんだろうなと。
田原 むしろクレームが来ればうれしいと。
大川 そうですね。潰れないくらいなら。
ただ田原さんみたいな根性はまだ僕にはないと思います。『朝まで生テレビ!』が始まったのは僕が高校生の頃でしたが、もう毎回楽しみで、高校生ながらに「すげえな」と思ってみていたわけです。でも今の自分には、まだあれをやれるだけの根性が、僕自身にはないですね。
田原 『朝生』もいま、出演者が集まりにくくなっているんです。
大川 そうですか。
田原 当時は大島渚とか野坂昭如という、つまり戦争を知っいてる人間がいた。大島なんて、絶対に国を認めないんだ。「国家は悪だ」というのが彼の信念でね。
それから小田実なんて、番組の中で平気で「天皇制反対。天皇制はやめろ」と言っていたからね。いまはね、そういうこと言う人間がいなくなっちゃった。
大川 確かにそうですね。われわれの世代は、『朝生』でそういう言論や姿勢を見て育ってるはずなのに、それ以上のことができていない。そう考えると忸怩たる思いがありますね。
田原 なんでできないんだろう。
大川 やっぱり勇気と根性がないのかな。
田原 いや、戦争を知ってる体験者がいなくなったからだと思う。
大川 確かに僕らは、覚悟を決めてとことんまで議論するというより、どこかで収まりがいいところを求めてしまっているような気がしますね。要するに、みんなが喜ぶようにしよう、迷惑を掛ける人がなるべく少なければいいかなって。そういう思いが先に立っちゃうところが、もう一歩踏み込めない理由なのかもしれませんね。