「僕自身、それまで不甲斐ない三振をしたり、Aチームの選手がダメななかBチームの選手が必死に粘ってくれて。みんなボロボロに泣きながら応援していましたし、『失敗したら』とか考えすぎていた自分たちがバカらしく思えてきて。あの試合は、本当にBチームの選手たちに助けられましたし、すごく勉強させられましたね」

 決勝打を放った阿部拓己は、Bチームのキャプテンだった。そして、この試合で秋の大会でのメンバー入りを勝ち取った。

「あのときの自分はベンチ外の選手でしたけど、自分のことだけを考えていたら『チームが崩壊してしまう』と思っていて。試合に自分が出ることでチームの横のつながりを見せたかった。きれいなヒットなんていらないから泥臭く、やれることをやろうって」

 試合に勝利し、選手たちは全員、抱き合って喜んだ。たかが練習試合と思うかもしれない。だが、この積み重ねこそが聖光学院の歩みであり、強さなのである。

「お前ら、やっとわかってくれた。やっと、聖光学院のユニフォームを着る資格のある選手になってくれた」

選手たちを変えるために自分を変える

 チームを信じ抜いた横山部長は、感慨深げにあのときの心情を綴る。

「俺はこの代で『人』と『人間』の違いを感じた。人はあくまでも個人。その個人同士が人と人とのはざまで物事を考え、思いやりを持って行動して初めて人間になるんだなって。俺も指導の仕方を考えなきゃいけないのかな? と思ったね。今までだったら『鳴かせてみせようホトトギス』でやってきて、鳴かなかったら『殺してしまおう』くらいの勢いで指導してきたけど、『鳴くまで待とう』も必要なんだなって感じた。選手たちを変えたいなら、まずは自分から変えていかないといけないのかもなって学んだよ」

 そして、横山部長はこう続けた。

「本音を言えば、それでも秋は負けると思っている。ただ、もし東北大会に行けたとしたら、『あれがきっかけだった』と言える試合だったね、山形中央の練習試合は」

 きっかけは、優勝という形で実を結んだ。

 秋の福島県大会を制した聖光学院は、12日から始まる東北大会に挑む。翌春のセンバツへの出場をかけた重要な大会ではあるが、横山部長は「今年は成長の秋だから」と腰を据える。同調するように、斎藤監督も高望みせず現状を冷静に見極めている。

「このチームは東北大会で勝ち上がれるほど強くはない。県大会から『1試合、1試合が試金石』と言ってきたなかで、選手たちは勝ち上がるたびに落ち着いてきた。東北大会でも、試合のなかで自分たちの経験不足を補って、成長してくれればいい」

 実りの秋を求めはしない。真摯に、ひたむきに。学びの秋と心根で戦うことができれば、このチームはもっと強くなる――そう思わせるだけの指導力が、聖光学院にはある。