苦悩の末に掴んだ今秋の県大会制覇

 コーチ陣が斎藤監督から信頼され、信用され、選手たちを育成する。毎年、新しい選手が入学するということは、それだけ人間の色、集団の個性も変わるということ。それでいながら、12年連続で夏の甲子園に出場で来ているのは、聖光学院という組織が強固な一枚岩であるからに他ならない。

 成熟したチームを作り上げる作業は簡単ではない。指導者たちは毎年、苦悩しながら様々なアプローチで選手を叩き上げ、最終的に育て上げるわけだが、とりわけ東北大会に出場した今年の新チームは手を焼いた。

 例年なら「まだまだ」と言いながら、それなりの手応えを語ってくれていた横山部長の表情が冴えない。いつもは豪快に笑い飛ばすような男の声が沈んでいる。

「今年は、ダメかもしんない・・・」

 その理由をこう説明する。

「毎年、この時期っていうのは完璧には仕上がらない。そりゃあ、新チームが始まって1か月ちょっとだから仕方がないんだけど、それでもいつもなら2人か3人は、『自分が犠牲になってもチームをよくしたい』ってヤツがいたんだよ。それが今年は誰もいない。『自分がやらないと』『失敗したらどうしよう』って、自分のことばっかり考えている人間が多い。こんなの初めてだよ」

 それは、斎藤監督すら「あんな横山、見たことがない」と、心を痛めるほどの深刻な状態だった。

 指導者たちは県大会での初戦敗退も覚悟していた。それは諦めではない。今年のチームは、例年よりも歩みが少しだけ遅い、と判断したからだ。

 だからこそ、賭けに出ることもできた。

 県大会直前に行われた、山形県の強豪校、山形中央との練習試合でのことだ。通常ならば2試合のところ、「5イニング制」の特別ルールで3試合目を行った。4回までに4-0とリードしながら、その裏にあっさりと5点を奪われ逆転を許してしまう。

 それでも、横山部長は選手たちの歩みを信じた。Aチームというより、聖光学院の「和」の神髄を見極めたかったのだ。

「このままやってもどうせ負けるんだから、Bチームの2年生にチャンスをやろうと。Aチームで胡坐をかいているヤツより、よっぽど根性があるだろうからってね」

 最終回。本来ならば公式戦のメンバーには入れないだろう、Bチームの2年生が生き様を見せる。逆転の好機を作り、逆転劇を演じたのが彼らだった。

 今年の夏に2年生で唯一、レギュラーとして甲子園を経験した小室智希は、ベンチでの選手たちの姿を鮮明に覚えている。