文学賞の選考に関わるまともな人で、村上氏を候補と考えている人はいないと思います。

 今回の「偽ノーベル賞」も、ノーベル賞本体とは縁もゆかりもない「勝手連」が村上氏の名を挙げているだけで、本来のアカデミーから事前に情報が出たことは本質的にあってはならないし、実際にないことです。

 では、どうして、村上氏はノーベル文学賞と縁がないのか?

アルフレッド・ノーベルが遺言したこと

 数週間前のこの連載にも記しましたが、アルフレッド・ノーベルが莫大な遺産の運用に関連して遺言した「ノーベル賞」の中で、文学賞とは

 「(先立つ年度に)出版に関わって人類の進むべき理想の方向を指し示すのに寄与した人物」に授与されるのを大原則としています。

 必然的に、これは「作家」に与えられる賞ではなく、ノンフィクション・ライターや政治家、あるいはベルグソンやサルトルのような哲学者も対象になります。

 もっとも哲学者に授与するとサルトルみたいに辞退するケースもあるわけですが・・・。

 さらには、一昨年に受賞したボブ・ディランのように、かつてベトナム戦争の時代、反戦を謳い上げたシンガー・ソング・ライターにまで授与される賞であって、別段狭義の「文学」や「小説」に限られるものではありません。

 ただ、徹底しているのはノーベルが遺言で示した方向性です。