ここ20年を振り返ると、近年の時代の移り変わりは加速度的ではないかと感じる。当然いまの時代にしか生きていないので、他の時代との比較は容易ではないが、戦後の激動期の移ろいは、もしかしたら似たような感覚だったのではないだろうか。とはいえ、それは数値化されているわけでもなく、あくまで主観の肌感覚でしかない。
一人で牛丼を食いながら、そんなことを考えた。
そんな考えをもたらしたのは牛丼屋における変化である。いまも昔も「男子厨房に入らず」で料理をまったくしない私は、格安の牛丼屋に通うことで学生時代を食いつないだ。当時、店の入り口ドアに手をかけ、心のなかで「ただいま」と口にしてしまうぐらいには常連だったと思う。店内には、年齢はまちまちながら「野郎」があふれていて、ごくたまに見かける女性はというと、ヤンチャそうな外見の男性のツレであることがほとんどだった。
しかし時は流れていま現在。昼食時に牛丼屋を利用させてもらうと、若い女性客が抵抗を感じることなく普通の顔をして、一人で食事をする姿をたびたび見かける。
バブル残り香が感じられた昔では考えられない光景だ。この20年ほどで、女性の意識が変化したことは疑いようもない。座ったカウンター席の尻のあたりがむず痒く、どこか居心地が悪い。それに引き換え、自分の変化のなさといったら・・・。
いや、「定点観測」を成功させる最低条件は、観測主体が変わらないことであると自分に言い聞かせながら、もそもそと牛丼を食べ、いそいそと店を後にする。道すがら、まだ続くであろう定点観測地、牛丼屋の未来について想像を巡らす。
202×年。インスタ映えするデザート牛丼の登場によって、女性客であふれかえる店内。人気モデルとコラボした足が長く見える牛丼の登場によって、女子高生であふれ返る店内。牛のような身体をした牛メン店員の登場によって、妙齢の女性であふれかえる店内・・・。