350室の同ホテルが完成すれば、ワンダグループが所有、管理・運営する世界100のホテルの1つになる予定だ。
しかし、この巨大な開発は、今も中高層ビルがなく、淡路島の約3分の2の大きさしかない小さなランカウイ島には似つかわしくない。島の自然環境だけでなく、景観も大きく変えることになるだろう。
世界遺産に指定され、ジョージタウンなど歴史的な建築物やおしゃれなカフェやレストランで整然とするマレーシアを代表するもう1つのリゾート地、ペナン島と一線を画すランカウイ島の魅力は、何と言っても、手付かずの大自然だからだ。
他と比べて、派手さで際立つ名所が少ないという人もいるが、サンゴ礁を抱える青い海に白い砂浜、何千年の時を経て今も息づく熱帯雨林にマングローブの森。そこは、プライスレスなマレーシアの古代から築かれた自然遺産が今も残されている大地なのだ。
島の高級リゾート地は、これまで、海を臨む、島の奥深い熱帯雨林の山間に建てられ、欧州からの観光客がビーチで昼寝したり、読書にふけるといった、スローライフを極上のヴィラで楽しむバカンスがランカウイ島の極意だった。
その極意を打ち破るかのごとく島の心臓部に、超高層ビルや高級高層ホテルを建てるというのだ。地元の人たちからは懸念の声も上がっている。
「開発業者は地元経済に貢献すると言うけど、中国の大陸人向けに作られたのは明らか。マレーシアにとって何のメリットがあるのか。高級ホテルやマンションは、地元の我々が到底手に入れられない価格で、島の自然や景観を破壊することにもなる」
地元選出のマハティール氏も「地元にメリットはない」と前ナジブ政権が決定した同プロジェクトを批判している。
筆者は、日本のメディアで初めて、島で一番活気がある観光名所のパンタイ・チャナンにオープンした展示ギャラリーを取材した。
同開発はいったい誰のために計画され、誰が恩恵を受けるのか。その開発の背景や中国との関わりを次回、ご紹介したい。
(取材・文 末永 恵)