安楽死数の変化を見ると、70歳以下ではそれほどの変化はないのに、70歳から80歳では、16年1831件、17年2002件、80歳から90歳の安楽死数は、16年1487件、17年1634件、90歳以上の安楽死数は16年522件、17年653件と、高齢者の安楽死が確実に増加している。「複合老人性疾患」が安楽死の要件として認められていることと無関係ではないだろう。

安楽死クリニック

 ここでオランダの安楽死の実態を見てみよう。

 オランダでは、「家庭医」制度が医療システムのすそ野を支えている。地域ごとに家庭医がいて、その地域の住民は体の不調がある時にはまずその家庭医に診てもらう。専門的な治療が必要と認められれば、家庭医から専門医が紹介される。

 この家庭医は、継続的にその地域の住民の診察に当たっているため、住民にとっては病気や健康のこと以外の相談にも乗ってくれる尊敬すべき存在になっている。

 そして、その住民が安楽死を望む場合、要請に応じるのもこの家庭医なのである。

 患者が安楽死の要件を満たしていると判断されれば、患者の同意のもと、家庭医は患者の自宅で致死剤を注射し「積極的安楽死」を施すか、致死剤を処方し患者自身による「自死」を介助することになる。

 しかし、中には患者の安楽死要請を納得しなかったり、そもそも信条において安楽死に反対の意見を持っていたりして、家庭医が引き受けないケースもある。その場合に患者が頼るのが「安楽死クリニック」だ。

 2012年にハーグに設立された安楽死を専門に行うこのクリニックは、名前だけ聞くと「殺人病院」のようなイメージを受けるが、オランダの人々の間では肯定的に評価されている機関である。定年を迎えた家庭医などベテラン揃いの医療集団である。

ハーグにある「安楽死クリニック」(筆者撮影)

 医師と看護師から構成された機動力あるチームで、要請を受ければオランダ全土を移動し、患者と面談し、要件を満たせば安楽死を引き受ける。

 ここでの安楽死の数も年々増えている。2012年32件、13年107件、14年227件、15年366件、16年487件、そして17年は751件という具合だ。

 ここを頼ってくる人々の数もうなぎ上りであり、17年には安楽死の要請者は2500人に上った。そしてここでも「複合老人性疾患」を理由に安楽死を遂げている人が増えている実態が判明した。