だが一方で気になる調査結果にも出くわした。

 2015年の調査委員会(注3)の調査によると、同年の安楽死要請者は1万2200人、安楽死数6822人だった。

 問題は安楽死できなかった人たちだ。要請に応じてもらえなかった5500人のうち実に3000人もの人々が、絶食して餓死したり、溜めた薬を一気に飲んだりして自死したという。

 さらに言うなら残りの約2500人は、安楽死を希望しながらも「要件を満たしていない」と判断され、放置されていることになる。

 人生終焉の法は、彼らにとっては「救済」となるはずだった。この現状を改善する手立ては、今のところ用意されていない。

安楽死法の中で

 この取材でもう一つ、注目すべき数値に出くわした。それは、安楽死審査委員会報告書の中にある安楽死した人の「医学的基礎的疾患」という項目の数値である。

 安楽死で死を遂げた人々が抱えていた疾患で最も多いのは「がん」の70%だ。だがその表を眺めていると、2015年から「複合老人性疾患」という項目が新たに設定されていることに気づいた。従来からあった「複合性疾患」とは異なる項目だ。この新設の項目での安楽死の数が急増しているのである。

「複合老人性疾患」を理由とする安楽死は、2015年に183件、16年に244件、17年に293件と急激に数字を伸ばしている。

 マッコア教授が解説してくれた。

「例えば『がんで心不全』、これは複合性疾患です。『難聴で、全盲で、変形性関節症で失禁』、これは『複合老人性疾患』となります」

 高齢にもなれば誰しも、体のどこかには不調が出てくる。一つずつ取り上げれば、「耐え難く解放されない苦痛」ではないし、合理的な治療方法があるだろう。

 しかし、その不調がいくつか重なると、「耐え難い解放されない苦しみ」と判断できる可能性が出てくるらしい。

「人生終焉の法」の成立は難しくなったが、以前よりも安楽死の要件が緩くなってきているのではないか――そんな疑念が湧いてきた。