自由に動けなくなった、軽い認知症の症状が出てきた、生きるのがしんどくなった、一人きりになった、これ以上生きて周囲に迷惑はかけたくない――理由は様々だろうが、「もう人生を終えたい」と思い詰めている人々もいるのだ。

 こうした要請に応えるため、オランダ政府が用意したのが「人生終焉の法」の法案だった。2016年10月、保健大臣と法務大臣が署名したこの法案は、オランダの議会に提出された。

 安楽死を推進する団体はこの法案を歓迎していた。世論の支持も見込めた。
国会で可決されれば、オランダの安楽死は、また一歩先に進むはずだった。

 ところが、2017年3月の総選挙の結果、安楽死に反対の立場を取るキリスト教系の政党が政権に入り、新しい議会での法案の提出は難しくなった。どうやらこの法案は当分お蔵入りになるようだ。

 この一連の動きの中で、安楽死の要件を緩和し、適応を拡大するかどうかの議論が沸き起こった。

 オランダに出向いた私の取材にまず応じてくれたのは、安楽死審査委員会の委員を務めるマッコア教授だ。

 私は「人生終焉の法」について、教授の意見を聞いた。

 この法案に対しては、そもそも王立オランダ医師会をはじめ反対も多かった、という。

絶食や大量服薬で自死する「安楽死要請者」

 マッコア教授が言う。

「第一に、信条として人生終焉の法それ自体に賛同しない人がいます。安楽死に反対している人からの批判だけではなくて、安楽死に肯定的で支持している人からも、この法律は好ましくないし、そもそも必要ないと制定に反対する意見が出ています。

 他には、この法案が成立すると、患者が安楽死法の下に安楽死を行ったのか、それとも、人生終焉の法の下に安楽死を行ったのかが非常に不明瞭になる場合が想定されるので、人生終焉の法は制定すべきでないという意見もあります」

 世論も賛成ばかりではなかったようだ。