それゆえ、おレンさんにとってあさりの酒蒸しは特別な一品だ。鷹の爪とにんにくを炒め、丁寧に砂抜きしたあさりと酒を加えて、貝の口があくまで蓋をしてじっと待つ。仕上げにバターと醤油、ねぎを散らせば出来上がりだ。酸いも甘いもかみ分けた深夜食堂のマスターが作るあさりの酒蒸しは、おレンさんにとっては今も、人生を強く生きていくためのカンフル剤なのだろう。

 コミックスの絵柄は素朴で、心のひだに染み入るような味があり、ぜひ読んでいただきたい作品だが、ドラマも捨てがたい味がある。原作を映像化すると、どうしても読み手が抱くイメージとの乖離(かいり)が起こりがちだが、この作品に関してはその違和感がほぼないように思う。ちなみに、コミックスではあさりの酒蒸しがお皿にのって出てくるが、ドラマでは写真のような小さなアルマイトの鍋で提供される。こうしたちょっとした演出の違いを探すのも、作品の楽しみ方の一つかもしれない。

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イタリア風オムレツ(ひまわり)

ひまわり』は、1970年に公開されたイタリアとフランス、そして当時のソ連による合作映画だ。公開時はモノクロームであったが、ニュープリント&デジタルリマスター版により鮮やかなカラー映画としてよみがえった。

 第二次世界大戦中のイタリア、出征前の休暇でナポリを旅していたアントニオ(マルチェロ・マストロヤンニ)は、快活で魅力的な娘ジョバンナ(ソフィア・ローレン)と出会い恋に落ちる。離れがたい2人は、12日間の結婚休暇がとれるという理由で結婚式を挙げてしまう。しかし、幸せな時間は瞬く間に過ぎ、アントニオが戦線に向かう日が近づいて来る。やがて時は流れ、極寒のシベリアでアントニオは行方不明になる。夫の生存を信じ、地の果てまでも探しに行こうとするジョバンナの闘いが始まるのだった。