最初に登場するのは実家に帰ってきた娘が、辛い理由を父親に話すシーンだ。2人の会話をさえぎるように、井本が塩ラーメンのどんぶりを運んでくる。乙美のレシピで作った塩ラーメンは、和風出汁から手作りしたさっぱりとしたスープに、白ごまと庭の青ネギが入っている。ここにバターをたっぷり入れて食べるのが熱田家の味、すなわち乙美母さんの味だ。

 「なんて不健康な食べ方なんだろう」そう言いつつ、百合子がバターのかたまりをラーメンどんぶりに落とし、スープをすする。優しく懐かしい味が、大好きだった継母への恋しさをよみがえらせ、涙を流す。

 生真面目すぎて生きにくさを感じている義理の娘を案じていた乙美。「もっと楽になっていいんだよ・・・」というメッセージが、このバター入り塩ラーメンから伝わったのだ。

 レシピには処方箋という意味もある。単なる料理の手順書の枠を超え、想いのこもったレシピには人の心の琴線に触れ、人生の再生を手助けする力があるに違いない。

 塩ラーメンの作り方はこちら

ブルスケッタ(トスカーナの休日)

トスカーナの休日[DVD]

 映画『トスカーナの休日』は、愛を失った女性が異国の新天地で再び幸せになる物語だ。ベタなストーリー展開の中に、人生を彩る本当に価値のあるものは何か、そんな見るものへのメッセージが織り込まれた映画でもある。

 ダイアン・レイン演じるフランシスは、料理が得意な人気作家。夫の浮気が発覚して離婚し、イタリアへ傷心旅行にでる。そして旅先のイタリア・トスカーナで、ブラマソーレ(太陽に焦がれる)という名前の付いた築300年の売家に運命的なものを感じ、全財産をはたいてこの家を買ってしまう。

 ところが古い家の修繕は予想以上に大変だった。得意な料理を作る相手もいない寂しさから、フランシスは孤独を深めていく。そんな時、料理を食べてくれる人たちがごく身近にいることに彼女は気づく。修繕を請け負うイタリア人の親方とポーランド人の職人チーム、毎日家に通ってくる彼らに、ねぎらいの食事をふるまうことにしたのだ。