20世紀のモダニズムと呼ばれる建築潮流から生まれた教会建築においても、光は大きなテーマとなっている。東京の目黒駅に近いところにある「聖アンセルモ教会」もそうだ。聖堂の内部には柱や梁がなく、ジグザグ状に連ねた鉄筋コンクリートの折板で壁や屋根をつくりあげている。これにより高さ、幅とも15mはある大空間を、コンクリートや鉄筋の使用量を節約しながら生み出すことを可能にした。
そして側面の折板の間にはスリットが設けられ、そこから外部の光がじんわりと差してくる。光は鉄筋コンクリート打ち放し仕上げの壁にかするように当たって、その表面の微細な凹凸をもったテクスチャーを可視化する。そして金箔が張られた聖壇の天蓋ともひびき合い、聖堂内部は光が乱舞しているようにも感じられる。
設計したのは、チェコ出身で日本に拠点を置いて活動した建築家、アントニン・レーモンド。教会の設計を多く手掛けたが、その中でも代表作がこれといってよいだろう。
海のギャラリー
たどり着くのにどれくらいかかるかで測る時間距離で比べると、東京から一番遠いところのひとつが高知県の最南端、足摺のエリアだ。朝一番の飛行機で羽田空港を発っても、到着するのは日が傾きかけた頃。そこに「海のギャラリー」がある。
海辺の景勝地に建つ建物は、折り紙でつくったような形状の鉄筋コンクリートの板が屋根に架かっている。小さいけれども印象的な外観だ。妻側中央の入り口から中へと進むと、内部では洋画家の黒原和男が収集した、世界の珍しい貝殻を展示している。1階は少し薄暗い雰囲気で、天井を見上げると、ガラスケースの中の貝殻が光のなかに浮かび上がる。深い海の底から海面を見ているような神秘的な印象だ。
一方、2階の展示室は、青く塗り込められた空間に天窓からの光が満ちている。浅瀬の海をグラスボートからのぞいたような風景にたとえられるだろうか。改めて室内を見渡すと、天井は天窓が端から端までを貫いており、床は階段やガラスケースが中央に走っている。スリットを通して差し込む光が、建物の中央部を真っ二つに分ける構成となっているのだ。
斬新な建築構造がもたらしたこのドラマチックな光の効果は、他の建築では味わうことができないもの。長旅の疲れを一挙に吹き飛ばす感動を与えてくれる。
ホテルムーンビーチ
「ホテルムーンビーチ」は、日本における最初期の本格的なビーチリゾートとして、1975年の沖縄海洋博覧会に合わせて開業。設計者のチームは、海外のリゾート地を回り、先進事例を研究してから、このホテルの設計にあたったという。建物は砂浜の上に柱で持ち上げられたような格好で建ち、すぐ目の前には美しい海が広がっている。2つの翼棟は90度の角度でつながり、それぞれの翼棟が中央の吹き抜けを挟んで、段状に積み重なった断面を採っている。