中国の行政組織は日本以上の階級社会である。村より地方政府、地方政府より国の方が、より強い権限を有している。このため農地の譲渡に関わる交渉が、どのようなものになるかは、想像に難くない。

 公社が農地を宅地にしようと考えた場合に、村が反対することなどあり得ない。村長や村民委員会のメンバーが土地開発公社から賄賂を受け取ることもあるとされるが、公社にしてみれば、村長に贈る賄賂などたかが知れている。

ぼろ儲けと、資金の拡大循環のカラクリ

 農業を続けることができなくなった農民には、転業資金が支払われる。その額は、農民の年収5年分ほどが相場である。農民の年収は日本円にして10万円程度だから、転業資金として50万円ほどが支払われることになる。農民は50万円ほどを持って、都市に移り住む。多くは農民工のような低賃金労働者になるのである。

 一般的に農民が村から借りて耕している農地の面積は、1戸あたり0.5ヘクタール(5000平方メートル)ほどである。これは日本の3分の1程度であり、農地としてはそれほど広くない。日本の土地取引でよく使われる単位である「坪」(1坪は3.3平方メートル)に直すと、1500坪ほどである。

 土地開発公社は、この1500坪の土地を50万円ほどで手に入れることができる。坪単価にすると約300円と、驚くほど安い。公社は、そのようにして手に入れた土地を、宅地や商業地として、使用権を販売する。

 使用権は宅地なら70年、商業地では40年などと定められている。業者はその使用権を土地開発公社から手に入れて、そこにマンションや駅ビルを建てて、入居者に使用権を売ることになる。

 最近、北京や上海では、使用権が70年ついたマンションの価格は東京よりも高い。例えば部屋の面積が150平方メートルほどのマンションならば、日本円にして5000万円を下ることはないだろう。場所によっては1億円を超えると言われている。

 だが、そのマンションが立つ土地を手に入れるために、土地開発公社が支払った資金は1坪あたり300円なのである。

 土地開発公社は1坪300円で手にした土地を、マンションのデベロッパーに、そんな安い価格で売らないだろう。それ相応の価格で売り渡しているはずである。