『松下幸之助 成功の金言365』(PHP研究所、2011年1月発行)は、「経営の神様」松下幸之助(1894~1989年)の生の言葉をぎっしりと詰め込んだ一冊だ。
幸之助の膨大な著作や講演の中から、仕事、経営、人生に役立つ言葉を抜粋し、1日に1ページ読める形で編集してある。幸之助の信奉者にとっては、さながら聖書のような存在となることだろう。
幸之助の経営者としての能力と業績は、今さら説明するまでもない。丁稚奉公からスタートし、並みの人間なら絶対にくじけてしまうであろう数々の逆境を乗り越えて、一代で世界に冠たる松下グループ(現パナソニックグループ)をつくり上げた。その偉業を成し遂げた幸之助は、確かに「経営の神様」と呼ぶにふさわしい。
その経営論や人生哲学は、すでに様々な形で紹介され、論じられているが、私がこの本を読んで改めて感じた幸之助の特質がある。常人離れした「すごさ」を3点挙げてみたい。
<その1> 言葉の力がすごい!
本書を読むと、幸之助は類まれな「言葉の力」を持った人だということが分かる。書き言葉、話し言葉のすべてが非常に分かりやすい。どんな言葉も頭にすんなりと入ってきて、心に強く刻まれる。
なぜそうなるかというと、まず幸之助は決して難しい言葉を使わない。そして、なんと言っても、例え話が上手なのだ。予想外の比喩を持ち出してくるので、関心をそそられ、なるほど確かにそうだと納得させられる。
例えば、「視野を広くすること」の大切さを説く時に、コレラ菌を引き合いに出す。今、我々はコレラを恐れているが、もう100年もしたらコレラ菌を活用する道が分かってくるかもしれない、だから世の中に絶対的な善や悪はないのだ──、という具合だ。