また、この直後の2010年4月14日に青海省玉樹で大地震が発生したが、彼女は中国のファンへの感謝から中国赤十字を通じて10万円を被災地に寄付した。こちらも中国側で大いに好感を持って受け止められる要因になった。

 ちなみに蒼井そらの名前は、中国語で表記すると「蒼井空(Cang jing Kong)」で、中国人が親しみやすい漢字三文字。しかも標準中国語で読むと尾音がすべて軟口蓋鼻音の「ng」音で統一され、音の高さをあらわす声調も1声・3声・1声と続くので、さわやかでキレイな音に聞こえる。

 蒼井そらが他のAV女優から頭ひとつ抜けて中国人から支持された理由は、中国側のファンと積極的に交流する姿勢を示したことや地震への寄付に加えて、彼女の芸名がたまたま中国向きだった点も関係していたと思われる(往年の飯島愛の知名度が特に高かったのも、同様の要因があったのだろう)。

 ちなみに、中国は当局のネット規制によりツイッターをはじめ国外SNSへの接続が禁止されているが、2010年当時は規制技術が発展途上だったことや、そもそも競合するSNSが少なかったため、ツイッターを積極的に使う中国人ユーザーが一定数存在していた。

 当時、わざわざ国外の新興SNSを使うような中国人は、多くが20~30代で「情強(情報強者)」のインテリ層だった。胡錦濤政権下で社会統制がかなりゆるんでいた時代背景もあって、こうした人たちはツイッターを使って中国国内では報じられないニュースを得たり、民主化や体制改革の議論をおこなったりもしていた。

 ゆえに当時、日本のAV女優に対するフォローは、こうしたクールでスノビッシュな人たちのおふざけネタとして位置づけられた面があった。中国国内ではタブーである存在(=AV女優)を公然と認める行為が、ちょっとカッコいいとみなされていたのである。

 この時期に体制風刺的な言動で人気があった若手作家の韓寒が公式ブログ上にAV女優の松島かえでのホームページのリンクを貼り付けたり、当時の人気ブロガーの安替が蒼井そらを支持する発言をおこなったりしたのも同様の理由だ。

 蒼井そらの中国でのニックネームは「蒼老師(蒼井先生)」。これも2010年当時の時点では、AV女優をあえて先生扱いするという反権威主義的な考えや、日本のAV女優ですら玉樹地震の被災地に関心を示したのに自国の政府が冷淡であることを皮肉る考えから生まれたネタだったらしい。初期の蒼井そら人気は、ややアンチ体制的な色合いを持っていたのである。