ペンキ塗りひとつとっても、工夫次第で楽しさは変えられる。

 職業に貴賎なし、という。その通りだと思うし、何よりも、これほど簡単にイノベーションを起こせる言葉もないと考えている。

 しかしそうは思わない人もいる。人間という生き物は承認欲求が強いらしく、自分の現状に不安、不満があるときは、比較をして「自分はまだマシだ」と言い張ることで、少しでも優越感を感じて、不安、不満を解消したくなる生き物らしい。

 私は、どんな仕事も取り組み方次第だと考えている。取り組み方が変わると、職業のイメージがガラリと変わることがある。本稿ではそれを考えてみたい。

「どうせ」から「どうせなら」へ

 ナイチンゲールをご存じだろうか。看護士という仕事を世界に知らしめた、あの人のことだ。ナイチンゲールは裕福な家庭に生まれた。そして「看護士になりたい」と希望を述べたとき、家族は大反対し、彼女の姉などは卒倒したそうだ。

 というのも、当時は看護士という仕事は貧しい女性が仕方なしに従事する、いやしい職業とされていたからだ。患者の血や膿で服が汚れることが多く、汚い格好の人が多かったから、余計に差別的な目で見られていた。

 ところがナイチンゲールは「患者の命を救う尊い仕事」だと考え、その信念に揺るぎはなかった。当時、世界最高の衛生学を学べるドイツの病院で訓練を受け、イギリスに帰国後、クリミア戦争で患者の治療に当たった。

 驚くべきことに、ナイチンゲールが看護士の仕事を改革したことで、死亡率が劇的に下がった。実は、患者の死亡率が高くなる原因は、不衛生な環境に置かれて、病原菌に二次感染することが多かったためだった。

 ナイチンゲール以前の看護は「どうせ血や膿で汚れるから」服を着替えもせず、ベッドのシーツも滅多に変えなかったが、ナイチンゲールは徹底して清潔な服に着替え、患者の居住空間を清潔に保った。その結果、二次感染する患者が激減し、死亡する患者も大幅に減ったのだ。