日銀が「イールドカーブ・コントロール」(長短金利操作)と呼ばれる新しい手法を導入してから1年が経過した。現状はインフレどころかデフレの懸念さえ出ている状況だが、日銀は物価目標を諦めたわけではない。こうした日銀のスタンスに対して、一部からはオオカミ少年と揶揄する声も上がっているが、インフレの兆候はあちこちに見いだすことができる。日銀が主張するように、インフレは着実に近づいているのかもしれない。

日銀の意向とは反対に社会はデフレ一色

 日銀は2013年4月の金融政策決定会合において、量的緩和策の導入を決定。年間80兆円の国債を購入することによって、市場にインフレ期待の醸成を促した。

 量的緩和策がスタートした時点では、消費者物価指数(「生鮮食品を除く総合(コア指数)」)は前年同月比マイナスだったが、すぐにプラスに転じ、消費税が8%に増税された2014年5月にはプラス1.4%(消費税の影響除く)まで上昇した。物価目標の達成はもうすぐかと思われたが、ここを境に物価は失速を開始し、2015年2月には0%まで低下。2016年に入るとマイナスが目立つようになった。

 日銀は量的緩和策を補完する目的で、2016年1月にマイナス金利政策を導入したが、タンス預金が増えるなど逆効果となってしまった。同年9月には、新しい金融政策の枠組みを決定し、イールドカーブ・コントロールという聞き慣れない手法の導入に踏み切った。
 この手法は、買い入れ額をコミットするという従来の考え方をあらため、購入額ではなく金利水準に軸足を置くというものだったが、市場はこの措置について、物価目標からの事実上の撤退と認識した。

 その結果、消費者はデフレマインドを強めることになり、物価が上がるとイメージする人はほとんどいなくなってしまった。スーパー大手のイオンは、消費者のデフレマインドは強いとして、2度にわたって商品の値下げを敢行したほか、家具大手のイケアも大幅な値下げに踏み切っている。