また、外国のコンピューターに侵入するサイバー攻撃には大統領の許可が必要だが、外国のインフラがどのように運営されているのかを調べるための「潜入」といったスパイ行為には大統領の許可はいらない、といった細かな規定まで決めている。
つまりロシアのインフラへの攻撃には当時の大統領オバマの許可が必要だったのであり、だからこそ、この攻撃は軍事作戦の一環であると見ていいのだ。そしてこのサイバー兵器を「爆発」させる時こそ、「敵国」ロシアへの軍事作戦の始まりを意味する。
ただオバマが承認したこのサイバー攻撃作戦は、オバマの任期が終わった時点ではまだ完了しておらず、そのままトランプに引き継がれた。ロシアとの関係性で責められ続けているトランプだが、そんなトランプの手中には、オバマから受け継がれた対ロシアのサイバー兵器が握られているのである。
今後その兵器が使われる日が来るのかどうか――。トランプの動きから目が離せない。

山田敏弘
ジャーナリスト、ノンフィクション作家、翻訳家。講談社、ロイター通信社、ニューズウィーク日本版などを経て、米マサチューセッツ工科大学(MIT)のフルブライト研究員として国際情勢やサイバー安全保障の研究・取材活動に従事。帰国後の2016年からフリーとして、国際情勢全般、サイバー安全保障、テロリズム、米政治・外交・カルチャーなどについて取材し、連載など多数。テレビやラジオでも解説を行う。訳書に『黒いワールドカップ』(講談社)など、著書に『モンスター 暗躍する次のアルカイダ』(中央公論新社)、『ハリウッド検視ファイル トーマス野口の遺言』(新潮社)、『ゼロデイ 米中露サイバー戦争が世界を破壊する』(文芸春秋)など多数ある。
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