チェンマイに数か月前から住み始めた70代の日本人高齢者夫婦が街を歩いていると高齢の日本人男性から次のように声をかけられたという。

 「当座のお金に困っていて、少し貸してもらえないか。銀行口座には日本の留守宅の家族がもうすぐ、入金してくれることになっていて、すぐにお返しします」

 当惑していると、「日本人なら助けてくれてもいいだろう」と態度を豹変され、怖い思いをしたそうだ。最近は、タイ人から見ても身なりの貧しい日本人が街を闊歩しているそうである。

 タイに逃げ出すリタイアプアの日本人高齢者の中の多くが、「年金受給の引き下げによる生活苦」を挙げている。

いまだに東南アジア移住を勧めるのはなぜ?

 しかし、将来的にタイ政府は、国民所得の増加を計画している中、最低賃金の引き上げが再び実施される可能性は否めない。そうなれば、さらなる物価、不動産の高騰は目に見えており、日本人リタイアプアの夢物語は、将来的にも現実的ではない。

 しかし、日本ではいまだに、貧困層の高齢者にタイを含めた東南アジアへ、日本から脱出するようアドバイスするフィナンシャルプランナーなどがいる。

 「今やタイは年金に頼る高齢者の移住先ではなくなりつつある。今後はリタイア高齢者は淘汰されるだろう」とタイのバンコクに長年住む日本人経営者は言う。実際、東南アジアでの移住、ロングステイの取得条件は年々、厳しくなっている。

 直近11年間、日本人の移住先で最も人気の高いマレーシアでもロングステイ用ビザ(MM2H、50歳以上)の取得条件は、「①1100万円の資産証明(不動産含まず)、②約500万円をマレーシア国内の銀行に定期預金、③月額約32万円の収入証明(手取り)」とハードルは高くなる一方だ。

 さらに、数か月から半年単位の海外滞在では家賃の安さは享受できないどころか、異国の地では、「言葉も食事も違う」「医療・介護制度は未整備」「治安も非常に悪い」。高齢者には向いていないように思う。

 今や中高年のお金持ちの「南の国でリッチに、リフレッシュしたい」ための移住で、年金生活者が「物価が安く、ワンランクアップの東南アジアでの優雅な暮らし」のための時代ではなくなった。

 現状を把握していないか、自らのビジネス、あるいは個人的な利害関係か、年金貧困者に東南アジアへの移住を勧める専門家は信用できない。