私はこの一件で、百の方法論よりも、千のアドバイスよりも、たった一言「無理をしないで」といういたわりの言葉の方が、劇的に事態を改善させることがあることを知った。

 こんな打ち明け話をするのには訳がある。これと同じことが、職場でもあるということなのだ。

 すごく頑張っているんだけど、力の入れどころを間違っているんだよなあ、と、脇から見ているとよく分かることがある。そこで「こうした方がいいよ」とアドバイスすると「分かってるんですけど、それができないんだよ!」と食ってかかられることがある。アドバイスしても通じない。

 ところが「あんまり無理をしないで、体を壊さないように」と声をかけただけで、スッと肩の力が抜け、大幅に状態が改善した、という経験が、みなさんにもないだろうか。私はたびたび経験していたのに、いまひとつ意識化できていなかった。嫁さんが言語化を助けてくれたのだ。

バブルの呪縛

 日本はバブル経済以降、働き方が非常にシビアだ。昭和の古き良き時代を描いた「サザエさん」では、マスオさんやノリスケさんが上司から「今日は残業してくれない?」と言われて「えー!」と叫んでるシーンがある。バブル経済以前のサラリーマンは、「気楽な稼業ときたもんだ」という植木等氏の歌がそれなりにあてはまっていたのだ。

 そしてバブル経済で、働けば働くほどぼろ儲けできる時代があった。給料はどんどん上がるし、財テクをすればどんどん資産が膨れるし、「24時間働けますか」のCMソングのように、「どんどん働け、どんどん儲けろ」という空気が社会に横溢していた。

 ところが、バブルが崩壊して以降も働くペースを落とすことができなかった。ちょうどバブルの頃に広まった、コンビニや24時間のスーパーマーケット、ファミレスや牛丼屋など、「眠らない企業」が一般化した。「24時間働きますよ」になってしまったのだ。

 しかもここにきて少子高齢化が深刻になり、とうとう物理的に無理な段階に入ってきた。「働き方改革」は、こうした社会情勢に基づいているのだろう。