以前、このコラムで、奈良県立奈良病院の産婦人科医師2人が時間外手当の支払いを巡って奈良県を訴えた裁判について取り上げました(「医師は非番でも飲酒禁止?」)。
11月16日、高等裁判所でこの裁判の二審判決が下されました。判決内容は、一審判決を支持するものでした。
これにより、医師の「当直業務」は通常業務と認められ、時間外手当の支給が認められたことになります。奈良県のみならず全国の病院に与える影響は大きいでしょう。
被告側の奈良県医療政策部長は、「交代制勤務の対応も必要となるが、医師不足の折、直ちに実施することは不可能であり、夜間や休日の診療を継続することが困難になる」とコメントしました。
「医師不足だから、多少の過重労働は仕方がない」という理屈はもっともらしく聞こえます。「夜間休日診療を維持するために医師に頑張ってもらうのはやむを得ない」と思う人もいるもしれません。
ところが不思議なことに、奈良県の医師求人の特設ホームページを見ても、県立奈良病院は医師の募集を行っていません。募集されているのは、コストが通常の医師の3分の1から2分の1で済む研修医のみです。
奈良県側は「医師不足」を理由に時間外手当の支払いを拒んでいましたが、実際には医師を増やそうとはしていないのです。
結局は医療財源不足が本質的な理由で、医師も増やせないし、時間外手当も払えないということなのでしょう。
医療価格を抑えたために医療の供給が追いつかない
現在、医療に対するニーズは極めて多様化し、そして膨張しています。
「夜中におなかが痛かったのに、時間外だという理由で診察を受けられなかった」「平日は勤めがあるので土日に診察してほしい」「待ち時間が長い」など、10年前であれば間違いなく「患者のわがまま」の一言で片付けられていたようなニーズにも、医療機関は応えなければなりません。