着々と進む西沙諸島の防備

 西沙諸島には観光施設が設置されつつあるだけではなく、人民解放軍の前進軍事拠点としての整備も進みつつある。国際社会では、人工島建設という“派手な”動きのために南沙諸島での中国軍事施設の建設に関心が集中しているが、西沙諸島における中国軍による防備態勢も着実に強化されつつある。

 そもそも西沙諸島(パラセル諸島)は、中華人民共和国が誕生して以来、中国とベトナムの間で領有権紛争が続いている地域である。1974年に中国がベトナムとの戦闘を経て奪取して以来、中国による完全に近い形での実効支配が続いているが、ベトナムとの間での領有権紛争は決着したわけではない。

 中国による西沙諸島実効支配の拠点は、西沙諸島北東部に位置する永興島(ウッディー島)に設置されている。現在永興島には、3000メートル級の滑走路を有する本格的航空施設(航空基地)、大型艦船数隻が接岸可能な港湾施設(海軍・海警基地)、南シナ海に広がる中国の「海洋国土」の行政を司る三沙市政府機関、ショッピングセンターなどの商業施設や漁業施設、それに灯台をはじめとする“安全航行支援”施設などが設置されている。そして、三沙市政庁職員、武装警察官、軍人、それに商業や漁業に従事する一般市民など、1500名ほどの「島民」が居住している。

 それらの施設に加えて、昨年からは地対艦ミサイル部隊や地対空ミサイル部隊も展開している状況が確認されている。これらの「防衛用ミサイル」は、アメリカ海軍が「航行自由原則維持のための作戦(FONOP)」と称して南沙諸島や西沙諸島の“中国固有の領土たる島嶼”に接近してきたため、“やむなく自衛のための措置として”設置されたのである。

 現在は、永興島だけでなく永興島以外の西沙諸島の2カ所に、大型の港湾施設、4カ所に小型の港湾施設、4カ所にヘリコプター発着施設が設置されており、小型ながらも前哨基地は19カ所にも及んでいる。港湾施設を有する島嶼環礁には、地対艦ミサイルシステムや地対空ミサイルシステムの展開が可能である。よって、アメリカとの軍事的緊張が高まった際には、西沙諸島の7カ所の島嶼環礁の各種ミサイルが米軍航空機や米軍水上艦艇の接近を阻止することになる。

矛と盾で身を固めた島嶼軍事拠点

 各種軍事施設だけではなく、様々な民間施設が数多く軍事施設と混在し、多数の民間人も居住している──そしてホテルやリゾートまで建設されつつある──永興島を軍事攻撃することは、精密攻撃兵器を擁するアメリカ軍といえども多数の非戦闘員を殺戮するおそれがあるため控えざるを得ない。