2つの戦争にリセッション(景気後退)・・・。荒れ狂う嵐の中、オバマ大統領が始動した。「米国再生」を約束した新政権にのしかかるのは、過剰なまでの期待の重圧。初の黒人大統領に沸き立つ国民の熱狂を冷ますかのように、就任演説では「現実直視」を訴える姿が目立った。

 就任式当日の1月20日早朝、首都ワシントンは空前の人波に襲われた。全世界から新大統領を一目見ようと、集まった人々は何と200万人。首都人口の3倍以上となり、ベトナム反戦運動やキング牧師が率いた100万人大行進をもしのぐ規模だ。

 折からの寒波と交通渋滞をものともせず、白人、黒人、アジア人、ヒスパニック(中南米系)など多種多様な人種が、就任式が行われた連邦議会議事堂前からワシントン・モニュメントまでの通称「モール」を埋め尽くした。

 大恐慌最中の1933年、ルーズベルト大統領は就任演説で「われわれが恐れなければならないのは恐れそのものだ」という名セリフを残した。それから76年・・・。大恐慌以来という経済危機に襲われ、米国民は再び明日への不安におののく。

 「今日われわれが集まったのは恐れではなく、希望を選んだためであり、争いではなく団結の目的のためだ」―。オバマ新大統領は就任演説でルーズベルト大統領を意識しつつ、大統領選でスローガンに掲げた「希望」の大切さを訴えた。

 だが、就任演説で目を引いたのは、過剰なまでの期待の大きさを何とか落ち着かせようとする新大統領の姿。「バブル」と言われるほどの期待は、失政に対しては失望に転じ、政権運営の妨げになりかねない。

 「試練は現実であり、深刻かつ数も多い。簡単に、短期間には解決できないだろう。だがアメリカよ、問題は必ず解決される」。このフレーズに代表されるように、就任演説には「楽観主義と現実主義が混在」(アクセルロッド大統領上級顧問)している。希望を掲げる一方で、「問題解決には時間がかかる。それまで忍耐強く辛抱してくれ」という率直な国民へのメッセージである。