米中、パリ協定を批准 国連事務総長 年内発効に楽観的な見通し

中国・杭州で握手するバラク・オバマ米大統領(左)と習近平中国国家主席(右、2016年9月3日撮影)〔AFPBB News

オバマ政権の国防省に対する「大国間の競争」使用禁止令

 最近、米バラク・オバマ政権の対外政策の問題点が浮き彫りになる出来事があった。

 ネイビー・タイムズ(Navy Times)によると*1、米国の国家安全保障会議(NSC)は、国防省に対して「大国間の競争(great power competition)」や「中国との競争」という言葉を使用しないようにという秘密指定の指示を出した。

 NSC関係者は、「大国間の競争」という言葉は、「米国と中国を衝突の方向に規定し、台頭する大国(中国)との複雑な関係を極端に単純化する」と主張している。

 この指示は、オバマ大統領とスーザン・ライス国家安全保障担当大統領補佐官が関与していると思われるが、オバマ政権の国防省と軍に対するマイクロマネジメントの典型例であり、オバマ政権の安全保障分野において8年間続いた重大な問題点である。

 「大国間の競争」という言葉は、今年の2月9日にアシュトン・カーター国防長官が発表した2017会計年度の国防予算案で採用されているカーター国防長官の肝いりのキーワードである。

 予算要求の背景となる国防省の脅威認識として5つのチャレンジ[ロシア、中国、北朝鮮、イラン、ISIL(いわゆるイスラム国)]を列挙しているが、特に中国とロシアの脅威を強調し、「大国間の競争」への対処重視を打ち出した点を私は高く評価している。中国とロシアへの対処は喫緊の課題だからである。

 米国は、2001年の9/11同時多発テロ以降、対テロ戦争を15年間実施してきた。イスラム過激主義組織ISILは現在対処している直近のチャレンジであり、北朝鮮とイランもチャレンジである。

 しかし、最大のチャレンジはロシアと中国であり、両国に本格的に対処する予算が必要であると宣言したのだ。

 米国にとって、国益を危うくする最も危険な国はその経済力、軍事力および対外政策から判断して中国であり、次いでロシアである。

 カーター国防長官の肝いりで進めている中長期的な技術戦略である第3次相殺戦略は、将来的な中国とロシアの脅威に対していかに技術的優位を保ちながらその脅威に対処するかを焦点にしている。

 まさに、「大国間の競争」という言葉は、NSCのマイクロマネジメントを排除して、次期政権に国防省としてバトンタッチしようとした第3次相殺戦略のキーワードであった。そのキーワードの使用を、オバマ政権の終末期に禁じたNSCの今回の措置は問題である。

オバマ政権の対外政策

●オバマ政権の対外政策の特色

 オバマ大統領の対外政策を語る時には前任者であるジョージ・W・ブッシュ大統領の対外政策を語らざるを得ない。なぜなら、オバマ氏はブッシュ氏が始めたイラク戦争に反対し、イラクやアフガニスタンからの米軍撤退を訴えて大統領になったからである。

 ブッシュ大統領の対外政策の特色は、米国の一国行動主義に基づいた極めて傲慢で、米国の卓越した軍事力に過度に頼る攻撃性にある。

 ハーバード大学教授のスティーブン・ウォルト教授は、ブッシュ氏とその取り巻きであるネオコンが、米国を「世界秩序の擁護者」ではなく「世界秩序の破壊者」にしてしまったことを厳しく批判している。

 一方、オバマ氏の対外政策は慎重であり、極力軍事力の使用を避ける、やむを得ざる場合には空軍戦力と海軍戦力を使用する。地上戦力の使用は最後の最後まで避けている。

 オバマ大統領はしばしば弱い指導者と批判されるが、米国、特にその軍事力ができることとできないことを理解し、米国の一国行動主義を避け、努めて紛争の当事者や関係国と協力しながら紛争を解決しようとしている。彼は、少なくとも「世界秩序の破壊者」ではない。

 そもそも、オバマ氏は、大統領就任以来、外交よりも主として内政に焦点を当ててきたが、彼の外交政策は、第1にジョージ・Wブッシュ氏が始めたイラク戦争とアフガニスタン戦争を終結させることであり、新たな戦争を始めないことである。

 第2に世界経済を安定させるために多国間の努力をリードすることであり、米国の経済を復活させることであった*2

*1=David B. Larter,“White House tells the Pentagon to quit talking about competition with China”

*2=Ian Bremmer, “SUPERPOWER”, P40