全米各地で「反トランプ」デモ、負傷者や逮捕者も

米大統領選後に米ニューヨークのトランプタワー前で行われた「反トランプ」デモの様子(2016年11月12日撮影)〔AFPBB News

 ドナルド・トランプ氏の大統領選勝利は、米国の大多数のマスコミや知識人(大学の教授、シンクタンクの研究者など)にとって大きな衝撃であった。

 彼らは、ヒラリー・クリントン氏の勝利を信じて疑わなかったが、蓋を開けてみるとトランプ氏の劇的な勝利を受け入れざるを得なかった。選挙前日のクリントン陣営には勝利を確信した高揚感があり、ヒラリー候補の最後のスピーチは勝利宣言に近いものであった。

 しかし、女性初の米国大統領は、11月8日の敗北により実現しなかった。史上最低と言われた大統領選を経て、トランプ大統領が誕生した意味は大きい。

 トランプ大統領の誕生は、望ましい方向への大きな変化をもたらす可能性がある一方で、混沌とした世界情勢をさらに悪化させる可能性もある。

 特に、トランプ氏は安全保障における知見に乏しく、彼がいかなる安全保障政策を確立するかは、世界の平和と安定にとって極めて重要な問題である。そのような状況において、トランプ氏の安全保障政策、特に対外政策を予想し、その予想に基づき我が国は如何に対処すべきかを考えてみた。

なぜトランプ氏は勝利したか

 ドナルド・トランプ氏の勝利の要因を分析することは、彼の今後の政策を占ううえで重要である。米国でも様々な視点から彼の勝利の要因に関する議論がなされているが、私も1年半にわたって大統領選挙を観察してきたので、自らの意見を述べたいと思う。

 結論的に言えば、トランプ氏勝利には複数の要因が混然一体と関係しているので、以下その複数の要因を説明する。

・選挙結果に最も影響を与えた直接的要因

 ジェイムズ・コーミーFBI長官のメール問題再捜査の発表が決定的な要因だった。ヒラリー・クリントン氏自身が大きな要因として挙げている。

 コーミー長官の捜査再開の発表前には10ポイント以上あった両者の支持率の差(クリントン氏有利)が、発表後に2ポイント以下の僅差になってしまった。その発表のタイミングは、形勢を逆転させるのに絶妙なタイミングであった。

 ヒラリー陣営はその劇的な変化を跳ね返すことができなかったことを選挙結果は示している。私は、コーミーFBI長官のしでかした歴史的ミスの影響の大きさを現地において痛感した。

・大衆迎合(ポピュリズム)の視点

 トランプ氏の直観的で単純明快なポピュリズムの戦術が成功した。

 つまり、分断国家米国の分断<マジョリティである白人とマイノリティであるイスラム教徒、ラティーノ(ラテンアメリカ系米国人)、黒人、アジア系との分断>を強調し、その分断をさらに広げる戦術が単純明快で低学歴・低所得の白人ブルーカラー層にピッタリはまった。

 白人ブルーカラー層は、自分たちの本音や怒りを明快に代弁してくれるトランプ氏を熱狂的に支持した。彼の単純明快な戦術は、分断をさらに大きなものにし、選挙後の反トランプ抗議行動の大きな要因になっている。

・行き過ぎたリベラリズム(政府による弱者救済、マイノリティ救済)に対する白人の反乱

 オバマ大統領の8年間で、政府による弱者救済・マイノリティ救済が行き過ぎた状況であるという認識に基づく白人の反発が爆発した。

 例えば、LGBT(レズビアン、ゲイ、バイセクシャル、トランスセクシャル)の問題で、同性婚の合法化は保守層の反発が大きかった。

 また、弱者救済の色彩の強いオバマケア(医療保険制度改革法)に対する根強い反発もあった。共和党は、健康保険には本来自分で加入すべきであり、他人の健康保険のために自分が払った税金は使われたくないという思いが強かった。

 また、ポリティカル・コレクトネス(人種や宗教に起因する差別を否定することを正当化すること)の行き過ぎに対する反発が白人の知識層にさえある。例えば、大学の授業中の議論で人種差別的な発言を少しでもしたら、単位取得や就職にも影響が出るという話もある。

 行き過ぎたリベラリズムやポリティカル・コレクトネスに対する白人(学歴貧富の差を問わず)の怒りが今回爆発し、トランプ氏勝利を導いたとも言える。