昨今のIT業界の大きな流れとして、「クラウドコンピューティング化」が挙げられるが、本来最も重要な「企業にとっての意味合い」が肝心の企業の皆さんに伝わっていないようにも思える。
急速な普及と、関連各社が様々なマーケティングメッセージを発していることにより、どうしてもそうならざるを得ないが、ここで一度原点に返って解説を試みたい。
蛇口から出てくる水のようにシステムを使う
元々、クラウドサービス業者の先駆けである米Salesforce.comのCEOは、かつて自社のサービス形態について、「蛇口をひねると水が出てくるようにソフトウエアの機能を提供したい」と、声高に訴えていた。つまり、ソフトウエアのユーティリティー(電気・ガス・水道のような公共サービス)化である。
同社のメッセージは時間とともに進化しているが、クラウドサービスを考える際は、この「ユーティリティー化」を軸に、水や電気に置き換えてみると分かりやすい。
皆さんの会社や自宅で、水道や電気はいつからどのように使っているだろうか? おそらく入居と同時に申し込みをして、あとは使うだけ、という状況ではないか。月々の利用料は自動引き落としで、さほど大きな負担をしているという意識はないだろう。水自体の品質にも、通常は疑問を抱くことはない。これがユーティリティーとしての利用の姿である。
一方で、水や電気を使うために、貯水タンクや発電所を造ったり建てたりすれば、巨額の費用が必要になる。企業における従来の「システム構築」というのは、まさにこの部類に入る。プログラムを開発して、ハードウエアも購入して、まさに築き上げていたのだ。
これを上記のような「ありものを使う形」にシフトするというのが、ユーザーから見たクラウド活用の本質である。
もう少し水に例えてみよう。蛇口に当たるのはパソコンである。プログラムやデータという水を、インターネット回線という水道管を通じて、必要な分だけ取り出して使う。それに対して月々に一定の基本料を支払う。こういう形でコンピューターの「便益」をユーザーが手に入れるということ。
企業に必要なものはシステムそのものではない。得たいものは便益であり、それをどう実現しているかは「雲(クラウド)の中」の出来事で、細かいことは分からなくても構わないのである。
コスト低減の一方でリスクも存在する
長らくシステムは「作って所有する」ことが基本前提となっていた。その中で登場したクラウドコンピューティングは、大きなパラダイムシフトをもたらすと言ってよい。