黒海といってもあまりなじみがない。私もウクライナに来るまで知らなかった。旅の途中で私がたどり着いたのは、黒海の北岸にあるウクライナのオデッサ、戦艦ポチョムキンの町。そこから南岸にあるトルコのイスタンブールまで、24時間かけて黒海を渡るのは、通称ウクライナ・フェリーという週1、2往復のおんぼろフェリーだった。もう今では 運航していないと聞く。
日暮れのオデッサで船に乗り込み、船室に一夜を眠って目覚めると、朝日が射している。どんよりと曇った冬のはじまりのオデッサの、うすらさみしい港から離れると、海をわたる風はまだ冷たいのに何か自由な気持ちになる。黒海のおもては魚の腹のように青黒かったが朝日は明るかった。
甲板でしばらく煙草を吸って、船室へ戻った。黒海の塩分濃度は低いと言われているが、潮風は髪にからまってべとつく。そんな海の気配をいたわるようにしながら、朝食にビールを飲む。
祭日を挟むからといって船の出港は何日か遅れた。私は出港を待ってオデッサの町に滞在するはめになった。冬の早く訪れる寒い町に繰り出すのも億劫で、オデッサでは、宿の近くのレストランに逃げ込んでは室内でボルシチを食べ、蒸留酒を飲んでいた。
祭日には暗い空に花火が上がって、結婚式帰りの花嫁は寒いためかウェディングドレスの上に短いマントを羽織っていた。オデッサには寒かった思い出しかない。
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