バングラデシュ・ダッカの喧騒(筆者撮影、以下同)

 私たちは芝生の上でコーヒーを飲みながら遠いアフリカの話をしていた。私はアフリカ旅行の話をし、友人はアフリカの仕事の話をした。狭くて埃っぽい乾季のダッカを憂いて、だだっ広いケニアのサバンナや、湿っぽくて重いタンザニアの海風を懐かしがった。

 それから私の持っていたトーベ・ヤンソンの本の話をした。「彼女は春が好きなんだね」と私が感想を言うと、「北欧の人たちは、極寒の冬にひとつの場所に閉じこもって、内側にあるものを充実させながら、彼ら特有の精神世界を作っていくんだ」と友人は言った。「内省的に春を待つ人々というか」

「なるほど。暑い国とは現実との距離感が違うのね。こっちの方が季節の変わり目も現実的にとらえてる気がする。まあ性格も外向的で、人と人の距離も近いしね」

「バングラは特にね、近いよね」

「一度会ったら友達だからね、道端のお茶屋さんでも靴磨き屋さんでも」

「で、もう一度会ったら家族だからね。うちでご飯食べてけ、ってすぐ始まるよ」

「ほんとそれ」

「日本人相手だと特にね、うざいくらいに距離近い」

「ねー、みんな親日的すぎて逆に困る」

 笑う友人の肩越しに、川のにおいがした。

高級住宅街にオープンしたレストラン

 2015年2月頭の土曜日。乾季の終わりだった。ちょうど春一番の嵐が吹いたばかりで、嵐の音に目覚めると、街は短い春に切り替わろうとしている。バングラには6つの季節があることを思いだす。