インドネシア・ロンボク島の海岸(筆者撮影、以下同)

 インドネシアのバリ島のすぐ東隣に、ロンボクという島がある。この島がイスラム教を受け入れたのは16世紀、今も住民の多数はイスラム教徒が占める。しかし、17世紀から19世紀にかけてこの島はバリの8王国の1つ、カランガスム王国が支配していて、それ以来、マジョリティのイスラム教徒(特にもともとこの島に住んでいたササック人たち)の中で、バリからロンボクにやって来た人々の子孫は静かにヒンドゥー教を守り続けている。

 一方、バリは、今も昔もヒンドゥー教の島だ。最近ではイスラム教徒の住民も増えてきているものの、住民の多数はバリ式のヒンドゥー教、いわゆるバリ・ヒンドゥーを信仰している。家の中には小さなお寺があり、バリの人びとは1日に5回、お供え物をして水をまき、祈りをささげる。それは日本の神棚の要領に近い。神棚との違いは、おじいさんを亡くしたおばあさんだけでなく、老若男女問わずみなが祈りをささげているということだ。

 町を歩くとお香の香りがして、お香にはヒンドゥーの神様のカラフルなにおいが詰まっていて、ここは小ぎれいなインドのようだという感想すら抱く。

 象の神様、ガネーシャの絵が入ったTシャツが、土産物屋の軒先にはためいている。それを西洋人の旅行者が手に取り、ぴんと引っ張る。ガネーシャの顔は伸びて、鼻はますます長くなる。門の前、道端に、いたるところに置かれた、草を編んだお供え物の小さなかご・チャナン。赤い花とクラッカーと合間にお香がささって、ふわふわと煙を立てる。目をつぶって祈る女の額には米粒がついている。鎖骨にも等しく、米粒がついている。上半身裸の男たちの、腕に、胸元に、肩先に見えるのは、ヒンドゥーの神様を模したタトゥー。ヒンドゥーの場所は、土のにおいがする。