英国のEU離脱問題、実は私自身がヨーロッパで個別の案件に関わっているため、必ずしもジャーナリストのような広い視野でモノを見ることができず、むしろ特化した問題に踏み込んでしまいがちなのかもしれません。
改めてその念頭で、いくつか個別具体的な問題について考えてみたいと思います。
私が「英国のEU離脱は愚かな短慮」と断じると「いや、歴史はそれが正解と答えを出すかもしれない」といった、よく言えば視野の大きな、別の表現を取るならやや現実と乖離したご意見をいただくことがあります。
そこで、私が直接目にする、少なくとも「愚行」としか言いようのない「EU離脱の被害」例についてお話ししてみましょう。
大学入学生の「EU枠」
しばらく前のことです。英国のオックスフォード大学で友人の教授から悲鳴にも似た苦情を聞かされました。
「大学のEU枠がさらに強化されるんだ。うちの研究室のクオリティを支えているのはインド人留学生なんだけど、もしそうなるとインド人が採れなくなってラボ全体が危機に陥ってしまう・・・」
英国最古の、いや、世界中の大学の中でも2番目程度に古い伝統を持つオックスフォードでも、学問の質を支えているのはもはや英国人、いや欧州人ですらなく、優秀かつやる気に満ちた新興国インドの若い才能たちになっている。
何ともはやな現実がここにあるわけですが、英国がEUを離脱してしまえば、この種の「EU枠」の問題は解決することになります。
つまり、インドであれパキスタンであれトルコであれ「nonEU」の学生をどれだけオックスフォードが採用しても、欧州連合から何の制約も課されることはない。
「いくらでも優秀なインド人を採用できるオックスフォード大学の未来は安泰」と言っていられる状況かというと、実はそうとばかりは言えません。
何より英国自体が「nonEU」になってしまうので、英国の優秀な才能がヨーロッパで活躍したいと思っても「外人」として排除されてしまう、つまり「枠」からはじかれてしまう役回りに、英国人全体が回ってしまったことになるわけです。