この日、共産主義青年団主催の演芸会「文芸の夕べ」において、3人の日本人留学生が行った寸劇が「中国人を馬鹿にしている」と中国人学生に受け取られ、日本人排斥運動にまで発展した事件である。
酔っ払い船長が開けてしまったパンドラの箱
9月7日に起きた漁船衝突事件の波紋は、対日デモというカタチを取り、中国全土に広がっている。日本当局による中国人船長の逮捕・釈放劇があった。尖閣諸島の領有権を主張してやまない中国は猛反発した。
閣僚級以上の交流を中止し、レアアースの対日輸出を制限した。民間レベルにおける各種イベントは次々と延期、あるいはキャンセルになった。
筆者にとっても他人事ではない。8月に出版した拙書『中国,我误解你了吗?』の全国プロモーションツアーや各大学における講義は、いまだに復活していない。
海上保安庁の船にぶつかってきた中国人船長は当時酔っ払っていた。衝突から逮捕のプロセスは、日中関係にとっては、「パンドラの箱が開かれた」(中国党関係者)ことを意味した。
2005年の時のように、日中関係は首脳外交の停止、民間交流の停滞、国民感情の悪化という悪循環に陥るかと、各界の関係者が頭を抱えた。
この事態に最も頭を痛めているのは胡錦濤主席だ
実は、頭を抱えているのは決して日本人だけではない。中国当局、もっと言えば、胡錦濤政権にとって、事態はより深刻である。
今月末、ベトナム・ハノイで開催される東アジアサミットの場での日中首脳会談の実現に向けて、両国政府は最終調整に入った。逆境の中でも、前向きに議論している。
そんな中、反日感情が高騰している。全国規模の過激デモが止まらない。外国とのつながりをもって経済成長を支える中国当局にとっては、極めてリスキーな状況である。
単なる対日関係ではない。中国という国家の信憑性の問題である。国家イメージという「核心的利益」を著しく損なっているのである。