先回、半導体に関する先端プロセス技術開発の事例で示したように、誠に残念ながら、1990年代半ばのインターネット時代の幕開けとともに、日本の産業、特に「サイエンス型産業」(サイエンス上の発見、発明、改良が産業化に直結しやすい産業)において国際競争力の低下が顕著になってきている。

 その様子は、PC基板設計ソフトの世界の雄である図研の最近のテレビコマーシャルではないが、「複雑性が急増しているテクノロジーやマーケットのクロックスピードに、なかなかついていけなくなってきた」という表現に尽きるように感じられる。

 なぜ日本勢は、加速したテクノロジーやマーケットのクロックスピードについていけなくなってきているのだろうか? どのようにすれば、クロックスピードについていけるようになるのだろうか? 今回は、この難問について少し頭をひねってみたい。

マーケットが複雑性を増す中で組織を変えられない日本企業

 テクノロジーマーケットにおける複雑性の急増は、ビジネス戦略や技術戦略を考察する幅と深さを急速に拡大させた。その結果、ビジネス戦略や技術戦略上の最適化の範囲が、企業内の研究開発や製造、マーケティングなどの諸部門のみならず、既存の企業活動の境界をも頻繁に飛び越えるようになっている。

 このような環境の中で企業が競争力を維持・強化していくためには、刻々と変化していく自己システムの振る舞いを、的確かつ迅速に一目瞭然化させ、最適な立ち位置を探し出すことが必要になる。

 だが、その変化に対して、企業は往々にして旧来の組織、あるいはその組織が持つコミュニケーション構造のマイナーな設計変更だけで対応しようとする。

 そうした対応では、正確な情報の入出を遅らせてしまうボトルネック部分が残りがちである。そのため、刻々と変化する環境の中で、自らの相応しい立ち位置を模索するのに長い時間がかかってしまう。

 また、組織内・組織間における情報の転送速度や応答速度もなかなか上がらないので、様々な作業の同期化を迅速に行えなくなる。

SOCシステム設計のカギは部品間の「コミュニケーション」

 組み込みシステムにおいて、アプリケーションに合わせて再構成可能、拡張可能なプロセッサーを開発している米テンシリカという企業がある。同社の最高経営責任者(CEO)であるC・ローウェンは上記の点に関して、以下のように指摘しており、組織経営の視点からも誠に興味深い。

 「効率的なSOC(System-on-Chip)システムの設計は、システムを構成する各部品が担う作業ならびにそれらの作業を担うプロセッサー間の効率的なコミュニケーション基盤構造に密接に依存している。