「想像できない歴史の重み」=広島訪問で感じる-米大統領

広島の平和記念公園で、被爆者の森重昭さん抱きしめるバラク・オバマ米大統領〔AFPBB News

 「71年前、雲一つない好天の朝、死が空から降り注ぎ、世界は変わりました。閃光と炎の壁が街を破壊し、人類は自らを破滅へと導く手段を手にしたことが示されたのです」

 「人間が悪をなす能力を消し去ることはできないかもしれません。だから、国家や同盟は、自衛手段を持たなければならないのです。しかし、我が国のような核保有国は、恐怖の論理(Logic of fear)から抜け出し、核兵器なき世界を追求する勇気を持たねばなりません」

 5月27日、伊勢志摩サミットを終えたバラク・オバマ米国大統領は、原爆投下国の現職大統領として初めて被爆地広島を訪れ、平和記念公園の原爆死没者慰霊碑に献花、17分にわたるスピーチを行った。

 メディアは歴史的な日として伝えたが、同行する軍人が被爆地へと携行した「核ボタン」、通称「Nuclear football(核のフットボール)」にも言及。

 司令部を離れても命令できるよう通信機器が装備された「核のブリーフケース」の存在は、いまも、核保有国指導者がすぐさま「死が空から降り注ぐ」世界をもたらし得ることを示している。

核戦争勃発間際に追い込まれる米ロ

 トム・クランシー原作のジャック・ライアン・シリーズ第4作『トータル・フィアーズ』(2002)(原題は「The Sum of All Fears」) は、そんな「恐怖の論理」と核ボタンをめぐる物語。

 米国で核テロを起こしたファシストの謀略で核戦争勃発間際まで追い詰められる米露の駆け引きを描くサスペンスアクションである。

 「今回の犠牲者の方々の追悼には平和への一歩しかありません。多国間で大量破壊兵器根絶へと踏み出すのです。我々は大きな代償を払い学びました。人類を滅ぼす最強兵器が使われるのは、怒りではなく恐怖によってだと」

 こんな米国大統領のスピーチで映画は終るが、今回のスピーチともよく似たこうした言葉も、いまだ世界には推定1万5000を超える核兵器があり、中国は核戦力増強、北朝鮮は核実験で挑発し、テロ組織への核拡散の脅威も増す一方、という現実では、虚しく響く。

 そして、「恐怖の論理」は、核兵器は「抑止力(Deterrence)」として必要だと訴え続ける。