フィリピン大統領選は、その過激な発言ぶりから「フィリピンのトランプ」とも呼ばれるロドリゴ・ドゥテルテ・ダバオ市長の圧勝だった。
ミンダナオ島南部の大都市で長年勤め上げてきた市長職の最大の功績とも言え、選挙期間中もアピールしていたのが治安対策。1988年就任当時、国内で最も凶悪犯罪の多い都市とされていたダバオを「安全な街」にした手腕への期待は少なくない。
7100あまりの島からなる島嶼国家フィリピンは、経済発展目覚ましく、「NEXT11」の1国にも挙げられる。英語が公用語の1つであることから、近年、語学留学も注目されている。
定年後の生活の地としても人気だ。歴史的建造物、棚田、紺碧の海、等々、観光資源も豊富。首都マニラまで航空機で4時間ほどという利便性もあり日本人も数多く訪れる。
強盗事件は日本の10倍以上
しかし、世界有数の「平和な国」で暮らす日本人にとって気になるのが、殺人事件や強盗事件の発生率が日本の10倍以上、という治安。身代金目的の誘拐も、年、数十件起きている。
『囚われ人』(2013)は、ビーチリゾートで観光客などが誘拐され身代金を要求された2001年の事件を描いた作品。世界最大級の地下河川のある洞窟、サンゴ礁豊かな海、2つの世界自然遺産のある「最後のフロンティア」パラワン島での出来事である。
犯行に及んだのは、イスラム過激派組織アブ・サヤフ。映画の中では「ミンダナオのムスリムへの返還」を掲げている。国軍等による掃討で、構成員も減少したというが、今なお活動は続く。
映画の大半は、ミンダナオ島近くに浮かぶバシラン島のジャングルを舞台に展開される。船に拉致され、たどり着いたその地で、命を落とす人質もいる。身代金が支払われ解放される者もいる。
アブ・サヤフのメンバーと強制的に結婚させられる女性もいる。人質もろとも、国軍から攻撃を受けたりもする。解放されるまで、377日間拘束されたフランス人ソーシャルワーカーを中心に話は進む。
フィリピン南部を含む東南アジア島嶼部では、広域イスラム国家樹立を目指すイスラム過激派組織ジェマ・イスラミヤ(JI)も活動している。