5月20日の台北は穏やかな晴天に恵まれた。もちろん、亜熱帯であるため、それなりに蒸し暑さはあるものの、朝夕は意外としのぎやすい。筆者は18日に台北入りし、21日に帰国したが、宿泊したリージェントホテルは、台湾と国交のある国々の代表団も宿泊していた関係から、正面玄関を出た駐車場には、中華民国の国旗と代表団の国旗を付けた黒塗りのベンツが整然と待機していた。
総統就任式は、午前9時ちょうどに総統府内に設けられた中華民国の国旗と国父・孫文の肖像画に正対して宣誓文を読み上げる宣誓式から始まり、国璽の継承式と続き、正式に総統に就任した。
その後、総統として最初の公文書である林全・行政院長の任命書に署名し、続けて林碧炤・総統府秘書長、呉釗燮・国家安全会議秘書長の任命書に署名した。林行政院長ら3名は直ちに就任の宣誓を行い、蔡新総統がこれに立ち会った。この最初の公務を終え、いよいよ総統就任演説を迎えることとなる。
内外の注目を集めた就任演説は、午前11時9分、総統府の前庭に特設されたステージで始まった。約6000字の演説テキスト(英文)は出席者に事前に配布されていたが、蔡英文新総統は、演説原稿を見ることもなく、ほぼ正確にテキスト通りの内容の演説を行った。
日本とも重なる国内の課題
さて、肝心の就任演説の内容だが、大きく分けて台湾の国内的課題と外交的課題に整理できる。
国内的課題については、率直な物言いで次のように語った。
「年金制度は改革しなければ破産します。硬直した教育制度は社会からますます乖離しています。エネルギーと資源は限りがあり、経済はモメンタムを欠いており、旧来の受託生産(OEM)モデルはボトルネックに直面しています。だからこそ新たな経済成長モデルが切望されるのです。