ジュエリーカミネ元町本店

 いまの東芝やシャープを見ていると、企業が規模を追求することの功罪を考えないわけにはいかない。スケールメリットはあっても、経営者の能力を超えて企業が大きくなったとき、大きなリスクが突然顕在化する。

 企業はそこで働く人に支えられているからである。社員を納得させやる気を引き出せなければ様々な綻びをきたし、ライバルにつけ入る隙を与えてしまう。三菱自動車の燃費不正も経営能力を超えたシェア拡大競争に邁進した結果だろう。

 そして、大量採用された社員は大量リストラされていく。企業の社会的責任を考えたとき、そういう企業は良い企業、あるいは強い企業とは呼ばれない。

 ひたすら規模を追うことよりも、社員の能力を引き出し挑戦を続けることで企業の価値、社員の価値を上げていく。そしてそれが顧客や投資家に利益をもたらす――。

 日本が誇りたい「強い企業」とは、上場非上場、規模の大小にかかわらず、そのような企業ではなかろうか。

市場規模が3兆円から1兆円に激減

 その意味で、神戸市に本社を置くジュエリーカミネ(以下カミネ)も間違いなく強い企業の1つだと思う。

 日本の多くの産業はバブル経済の崩壊以後、停滞あるいは低成長に悩まされてきた。500兆円前後で停滞する日本のGDP(国内総生産)がそれを象徴しているが、カミネが属する宝飾産業は停滞どころの騒ぎではなかった。

 バブル時のピークに約3兆円あった市場は1兆円を割るまでに減少した。実に3分の1の規模に縮小してしまったのである。しかし、その猛烈な逆風下でもカミネは着実に成長を続けてきた。

 いまやスリランカに鉱山まで持つようになった。鉱山を所有している宝飾店は日本ではほかに見当たらない。

 そればかりではない。いま、縮小する一方の宝飾産業をV字回復させるかもしれない新しい試みにも挑戦している。それは後述するが、日本が得意とするサブカルと宝飾の融合である。

 なぜカミネは元気なのか。その秘密は社員をワクワクさせる経営にある。目先の収益に社員を縛ることなく、長い目で事業を考える。面白いこと楽しいことを社員にどんどん提案させる。そして実行に移す。

 社員の使い方で企業を大きく2つ、社員を柔軟性に富んだロボットのように扱い数値目標で厳しく縛るタイプと、創意工夫を促して独創的な商品・サービスを作り出すタイプに分けるとすれば、カミネは間違いなく後者に属する。

 かつての日本は創意工夫型の企業が多かった。しかしバブルが崩壊したあと短期的な数値目標が重視されるようになってロボット型の企業が増えてきてしまったようだ。規模の拡大を目指す経営は、その証左の1つと言えなくもない。

 ロボット型の経営を志向する企業はいずれ社員は実物のロボットに置き換わるだろう。そして長い目で見れば創意工夫能力が乏しくなった企業は衰退を免れない。

 一方、社員の創意工夫を大切にする企業は、独創的な商品やサービスを生み出すだけでなく、創意工夫を重ねることによって社員の成長を促す。それがまた次の独創的な商品やサービスにつながっていく。

 日本の未来はこうした企業によって開けていくはずである。日本経済を新たな成長路線に乗せたいと考えている安倍晋三首相にもぜひ知ってもらいたい企業の1つである。