1990年代のバブル崩壊後の日本の財政金融政策は、一貫して引締め気味の金融政策と拡張気味の財政政策の組合せだった。
財政政策と金融政策の組合せをポリシーミックスと呼ぶが、90年代のこの組み合わせこそ、マンデルフレミングモデル*1に基づき、長期間持続した円高の主因だったと考えられている。結果的に発生した円高は、マッキノンによって「円高シンドローム」としても理論化された。
日銀総裁に就任する前の黒田氏はご自身の著書『財政金融政策の成功と失敗』(日本評論社、2005年)で、過去30年間の日本のポリシーミックスの10の実例を分析して「為替レートとの関係(筆者注、円高を惹起したの意味)で財政金融政策の誤りが生じた例が多い」(P.169)と書かれている。「マンデルフレミング理論は政策判断には有効」(P.170)とも書かれている。
黒田氏が安倍総理から要請を受けて日銀総裁に就任した後のポリシーミックスは、ご自身の著書での主張を実践するものであった。すなわち、2013年以降、超緩和気味の金融政策と拡張気味の財政政策の組み合わせで、円安と景気回復に成功した。
ところが、2016年1月の日銀のマイナス金利の導入で状況が変化しつつある。日銀としてはマイナス金利の導入で金融緩和手段を多様化するなど金融緩和の余地を拡大させたはずだった。
*1マンデルフレミングモデルの解説は同シリーズの別レポートをご参照。