宮城県産の“新しい牡蠣”として注目を浴びる「あたまっこカキ」。殻はぴかぴか。実は濃いうま味を呈する(写真提供:水産総合研究センター東北区水産研究所)

 冬場が旬の牡蠣をテーマに、前後篇でその歴史と現在を取り上げている。前篇では、牡蠣の養殖技術の歩みを追う中で、1923(大正12)年の関東大地震が結果的にもたらした“プラスの影響”を紹介した。

 大地震により海底が隆起したため、研究施設で旧来の養殖法を続けられなくなり、これが「垂下式」というイノベーティブな養殖法の開発に勢いをつけたという話だ。

 それから88年後の2011年3月、東北地方太平洋沖に巨大地震が起きた。大津波が、宮城県など東北地方の沿岸に押し寄せ、牡蠣養殖業にも壊滅的ダメージを与えた。

 人間は、どんな危機に対面しても、そこから「災い転じて福となす」ための手だてを見つけようとするものだ。関東大地震を機に牡蠣の養殖法が開発されたのと同様、現代でも震災を機に、災い転じて牡蠣のイノベーションを生みだすことはできるだろうか。

 そこで後篇では、宮城県の牡蠣業復興の一環として、高品質で高価値の牡蠣づくり目指して進められている研究に目を向けたい。訪ねたのは、宮城県塩竈市にある水産総合研究センター東北区水産研究所。特任部長の神山孝史氏に、震災後の新たな牡蠣づくりの取り組みを聞いた。

 これまでになかった発想で“新たな宮城県の牡蠣”が生まれているのだ。

復興に向け、牡蠣再生プロジェクトが立ち上がる

 大津波により、宮城県の牡蠣養殖業は壊滅的な被害を受けた。農林水産省の発表によると、県内牡蠣養殖施設のじつに98%の面積が被災したとされる。

 復旧を果たせぬまま廃業した牡蠣養殖業者も多い。国内で主流の真牡蠣(マガキ)を種から育てるにはたいてい2年以上はかかるため、手早く育成できるワカメなどに対象を切り替える人もいた。