「どう部下を怒っていいか分からない」

 私は公認会計士、心理カウンセラーとして経営コンサルティングをしているため、こういったご質問を受けることは多々ある。

 しかし、厳密に言えばこの質問は正しくない。部下は叱るものであって、怒るものではないからである。

 「叱る」と「怒る」は辞書では同義と扱われる場合もあるが、教育や人材育成の場では使い分けられている。

 「叱る」は相手のためを思って相手を諭し、正しい方向に導くことである。一方、「怒る」は自分の怒りのはけ口を求め、怒りの感情を相手にぶつけることである。

強い感情は理性を圧倒する

 「叱る」は相手のため、「怒る」は自分のため。

 上司は怒りの感情が沸々と湧き上がってきても、その感情をぐっと抑えてきちんと叱る。これは上司として自覚すべきことだろう。

 とは言え、それは決して簡単なことではないということは、読者の方々も感じているところではないだろうか。

 人の脳には人間的な理性を扱う部位と動物的な感情を扱う部位とが共に存在している。理性と感情という対照的な性質を持つ部位が脳の中で共存するため、人は葛藤を覚える。

 「叱る」は理性的な行動であり、「怒る」は感情的な行動である。

 そのため、理性>感情の状態を維持できれば、怒ることなく叱ることができる。しかし、強い感情は理性を圧倒する力を持つように脳の仕組みが設計されている。