ロシアの目的は2月のミンスク停戦合意に表われているように、この地域に自治権を付与して、ウクライナ内にとどめることにある。そうすることで、ウクライナのNATO(北大西洋条約機構)加盟を阻止し、かつ財政はウクライナ側に負わせることができる。
実現すれば、ローコスト・ハイリターンな事業となる。そのため、ロシア政府はドンバスの人民共和国の「国家承認」や「ロシア連邦への編入」を考えていない。
しかし、現実には、ミンスク合意の履行は進まず、停戦状態で何の進捗もないまま、悪戯にロシア政府の負担だけが積み重なっている。さらに夏以降、人民共和国側が、ウクライナ法を無視して地方選挙を強行する構えを見せてきた。
ミンスク合意によれば、2015年末までに、人民共和国はウクライナ法に準拠した地方選挙実施しなければならないのだが、ウクライナ側の法改正の動きは満足できるものではなかった。
両者が対立したまま人民共和国で地方選挙が実施されれば、ミンスク合意は有名無実化し、現状が既成事実化してロシアの負担だけが続くことになる。膠着状態を打破するための軍事攻勢は、シリアに軍事介入している現状では困難だ。
10月初めにパリで開催された4者サミット(ドイツ、フランス、ウクライナ、ロシア)において、プーチン大統領は、軍引上げやウクライナ側による国境管理の回復で譲歩を見せた。さらには、地方選挙を延期させることも約束したのだ。
これに先立ち、人民共和国内のロシア編入派が排除されている。例えば、ドネツク人民共和国のナンバー2であるプルギン人民議会議長が議長職から解任されるという事件が9月に起きている。
プルギン氏は、ウクライナ側との武力衝突で功績があった人物で、人民共和国内でロシア編入派の急先鋒だった。親ロ的であろうと、こうした人物は、今のロシア政府にとって迷惑な存在である。
ミンスク合意が完全に履行されれば、ロシアは軍事力を撤収でき、ロシアが負担している行政費用やガス供給もウクライナ側に押しつけることができる。つまり年数十億ドルを浮かすことが可能となるのだ。
スポンサーの豹変により、人民共和国指導部は梯子を外された格好だ。そもそも、人民共和国政権は、ウクライナからの分離独立・ロシア連邦編入を目指しており、ウクライナ領内の構成体にとどまる考えを持っていなかった。